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地下の汚染水漏洩問題で露呈した東電の限界――福島第一原発の国有化を

2013年5月14日1:37PM

 東京電力は四月一〇日、福島第一原発の敷地内を掘って設置した地下貯水槽の使用を断念し、すべての汚染水を鋼製タンクに移すと発表した。

 東電は四月六日午前一時半に臨時会見を実施し、地下貯水槽から高濃度の放射性汚染水が漏洩したと発表。地下貯水槽は全部で七つあり、漏洩したのは二番貯水槽だった。ポリエチレンシートを二重に敷いた構造で、貯蔵量は一万三〇〇〇トンだった。六日午前一〇時に開かれた二度目の臨時会見で、漏洩量は一二〇トンだと説明。二〇一一年一二月の収束宣言以降、最大の漏洩量だった。

 福島第一原発では現在、メルトダウンした核燃料の冷却のために注水している水が建屋地下に溜まり、流入してくる地下水と混じり合い大量の汚染水になっている。この汚染水から放射性セシウムを取り除き、循環注水に使用しているが処理過程で塩分や放射性ストロンチウムを大量に含む汚染水が発生。三月末までに約二五万トンが敷地内に貯蔵され、地下貯水槽に二万四〇〇〇トンを溜めている。

 その後の会見で明らかになったのは、東電が早い段階で漏洩を認識する機会がありながら、漏洩ではない理由を検討していたため公表が遅れたことだった。

 二番貯水槽は四月三日の時点で塩素濃度(塩分を示す)が上昇していた。東電は塩素濃度を漏洩検知の手段の一つにしていたので、この時点で疑いがあったことになる。にもかかわらず東電は、放射性物質の濃度が大きく上がっていなかったことから漏洩と判断せず、発表もしなかった。尾野昌之・原子力立地本部長代理は六日の会見で「他の要因の排除にアタマがいっていたため、漏洩と思い定めて調べていなかった」と釈明した。

 さらに七日の会見では、二番貯水槽の水位が三月から継続的に下がっていることを示すデータも発表。尾野本部長代理は水位計のデータについて、誤差があるとする一方で、「改めて分析する中でデータを示している。さらに注意深く見ておけばよかった」と述べたが、東電の対応の遅さは明らかだろう。

 貯水槽の漏洩はその後も続いた。七日に三番貯水槽の外側で塩素や放射性物質が検出されたほか、二番から移送していた一番の貯水槽からも漏洩が始まった。貯水槽の構造そのものに問題がある可能性が高まったが、尾野本部長代理は当初「ない袖は振れない」「状態がよいものは監視しながら使用せざるをえない」などと説明していた。

 一方で原子力規制委員会(原子力規制庁)の対応にも問題があった。専門家が見れば危険性が認識できる構造だったにもかかわらず、旧原子力安全・保安院も規制庁も東電の説明を追認するだけで、独自の確認をしていなかったのだ。

 東電は保安院に対し、地下貯水槽には廃棄物処分場の実績があると説明していた。しかし『朝日新聞』は「ため池にシートを敷いているようなもの。近年の処分場ではありえないお粗末さ」との専門家のコメントを紹介。さらに『毎日新聞』は、施工した建設会社が同タイプの地下貯水槽に大量の水を貯蔵した実績はないと報じた。

 福島第一原発では三月に、大規模な停電により使用済み燃料プールの冷却が長時間停止する事故があったばかり。停電の原因は、仮設配電盤にネズミが入ってショートしたことだった。事故発生から二年が経つのに電源という重要設備が仮設のままで、バックアップもなかった。

 こうした一連の対応を見ると、民間企業としての東電の限界を露呈したもので、少なくとも福島第一原発を先行して国有化を検討すべき時期に来ているのではないか。

 規制委は四月一〇日、七月施行予定の新規制基準の条文案を了承した。しかし新規制では、重要設備であっても工事に時間がかかるものは五年間の猶予を設けた。なぜ五年なのか、規制委で突っ込んだ議論はなかった。

 東電や政府は、溶け落ちた核燃料の取り出しに四〇年を見込んでいる。今のままでは、私たちは四〇年もの間、不安を感じ続けることになりかねない。

(木野龍逸・ジャーナリスト、4月19日号)

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