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「尖閣購入」意見広告で日本語原文にない文章が――軍事同盟を重視する東京都

2013年2月21日4:57PM

東京都が2012年7月27日付で米紙に掲載した「尖閣諸島」購入計画の意見広告。(撮影/三宅勝久)

 石原慎太郎・前東京都知事の「尖閣諸島」購入発言を受けて都が昨年七月二七日、米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』に出した意見広告をめぐり、日本語原文にない「日米同盟」に関する文言が英語文に混入するなどうさん臭い事実が発覚した。

 意見広告の翻訳・掲載の契約先は「(有)デスティネイション・ウエスト」(東京都渋谷区・鈴木直子社長)で、費用は一六七六万円。

 疑問の第一点は「アメリカ人のみなさんへ」ではじまる冒頭の段落部分だ。

〈東日本大震災の折りには、皆様から温かいご支援をいただき本当にありがとうございました〉

 日本語原文はそれだけなのに、掲載された英語文には次の一文が続く。

〈It reflects the commitment of the United States to a strong and enduring U.S.-Japanese alliance.〉〈(支援は)強力で永続的な日米同盟に対するアメリカの関わりを反映したものです〉=筆者抄訳

 なぜ唐突に「日米同盟」という軍事同盟が出てくるのか。知事本局はこう説明する。

「デスティネイション社のコピーライターから『この一文を追加したほうが意見広告の趣旨が伝わる』との提案があり採用した」

 翻訳を請け負った代理店からの提案だという。だが、情報公開請求をしたところ妙なことがわかった。追加した英語文に対応する日本語原文が存在しないのだ。

 日本語がなくてどうやって検討したのだろう。ためしに知事本局の職員に「U.S.-Japanese alliance」の意味を尋ねた。職員は「アメリカと日本の友好的な関係」と説明。「軍事同盟である日米同盟のことではないのか」とただすと「たしかに日米同盟だが、軍事に特化したわけではない……」と歯切れが悪い。

 二つ目の疑問点は「尖閣諸島」という言葉の使い方にある。肝心の島の数が明確ではない。

 英語文の意見広告全体を通じて「the Senkaku Islands」(尖閣諸島)の言葉は四回登場する。総称としての「尖閣諸島」が二回、都が購入対象にされている島という意味での「尖閣諸島」が二回。尖閣諸島の定義は都のホームページで明らかにされている。すなわち八島(五島三岩礁)――魚釣島・南小島・北小島・久場島・大正島・沖ノ北岩・沖ノ南岩・飛瀬の総称である。このうち石原前都知事が購入を口にしたのは、魚釣島・南小島・北小島の三島。ところが、八島も三島も区別せずに「尖閣諸島」と書いているのだ。

 このあいまいな表記とあわせて、意見広告に掲載された「尖閣諸島」の地図にも島影は三つだけ。なぜ「尖閣諸島のうち三島を購入……」と正確に書かないのか。都は「紙面に限りがあった」と言うばかりだ。

 島の数をズサンに扱っている一方で、専門的な軍事用語が使われている点も不自然だ。「東半球における米軍の最重要拠点である沖縄に所在する尖閣諸島の購入」(を石原知事が表明した)という部分では、日本語原文は「東半球」とあるのに、英語文になると「geostrategic」(戦略地政学的)といった軍事用語が使われている。

 軍事色は意見広告全体に漂っている。論旨は次のとおり。

〈尖閣諸島は沖縄県にある。沖縄県は米軍にとってもっとも重要だ。最近中国が日本の領土である尖閣諸島に圧力をかけている。中国と対峙する国を支援しなければアメリカは太平洋を失う。だから、どうか都の購入に理解と支援を〉

 米軍へのおもねりさえ感じさせる内容だが、米国に三島購入に関する「理解と支援」を呼びかけるのは意味不明というほかない。米国政府は、久場島(現在も民有地)と大正島を米軍の射撃・爆撃場として管理下におく一方で、尖閣諸島の領有権については中立を堅持している。日本の領土だと認めない相手に「購入に理解」を求めているのだ。

 米軍よ、沖縄にいつまでも――石原氏が税金を使って米国に届けたかったのは、そんな卑劣なメッセージではなかったか。

(三宅勝久・ジャーナリスト、2月8日号)

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