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【石坂啓の風速計】 ある選考委員の退任

 賞をもらうどころか仕事をほめられることもほとんどない生活をしているが、以前に一度だけ、ある漫画賞の候補に上がっているが受賞する意思はあるかと打診をされたことがある。

 横着にも返事をするより先に、その賞の審査員は誰か、これまでの受賞者に誰がいるかを尋ねた覚えがある。不遜なのは承知の上です。おゆるしください。でも自分が尊敬するどころか「サイテーだなァ」と思うような人たちに、審査されたり同列だと思われたりするの、イヤじゃありませんか。

 とまあもともとひねくれてはいるから、こんど自分が審査する側の仕事をさせてもらうときには、できるだけ謙虚な気もちで努めようとしてはきた。漫画だったり作文だったりシナリオだったりテレビ番組だったり、作品に接する機会が増えたのはうれしかったが、採点をするときにはだからいつもビクビクものだ。私なんかが審査員でスミマセン、どうか「石坂に俺の才能がわかってたまるか」くらいに思っていてくださいね、――と。

 あらゆる賞には背景がある。純粋に人を応援するものではあるのだろうけど、主催する側にはさまざまな意図があって当然だ。審査員を選んだ時点で意味あいはかわるし、数字におきかえて判定できる性質のものと違って、絵だの文字だのといった作品はそもそもジャッジがむつかしい。

 石原慎太郎さんが芥川賞の選考委員をされていたことを私は知らなかった。「バカみたいな作品ばっかり」と放言していたこと、まあこの方がある日突然謙虚な発言をされたら驚いたはずだから、らしいと言えばらしいんだけど、周囲の人々がさぞ頭を抱えていらっしゃるんじゃないかと審査光景が想像できた。

 権威のある賞で権威のある先生がドッカリと居座っている光景。若手の感性からすっかりズレているのに自覚もなく、過去の自慢をする光景。主催側から彼らに審査員「辞任」のお願いをすることが、もはやできないという光景。そういう現状を少なからず私も見てきたからである。

 口に出して言うかどうかはさておき、賞を「もらっといてやる」という気持ちでいるのは作家として大いに正しい。そして今回は選挙に専念いただくべく委員の一人に退場願えて、出版部数も大増刷できた主催側に対してこそが、「おめでとう」だ。

(2月3日号)