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官房長官裁定すり替えの共犯は誰か?――八ッ場ダム工事再開決定の謎

2012年1月23日2:53PM

定例会見に臨む前原誠司民主党政調会長。(撮影/まさのあつこ)

 八ッ場ダム(群馬県長野原町)建設事業の再開について野田佳彦首相は昨年一二月二四日、テレビカメラの前で語った。

「政権交代以降、四代の(国土交通)大臣の下で予断なく検証してきた結果であります。その中での苦渋の決断だった」

 ところが首相は同月二九日に、反発した議員たちに念を押されて「河川整備計画の策定」と「生活再建に関する法案の国会提出」の二要件が八ッ場ダム予算執行の前提であると、民主党の税制調査会で言い直した。

 しかし、これは二四日に離党会見を行なった民主党群馬県連会長代行の中島政希衆院議員(左ページにインタビュー記事)に続いて若手議員らが離党を始めるなど、党全体に沸き起こる反発に反応して問題を先延ばしにしたにすぎない。まして水没予定地住民の生活再建や過大な水需要予測、治水策のあり方の是正を狙った抜本的な解決策などではない。

 おとなしい国民を見くびった浅はかなガス抜きであり、時代を見誤ったマニフェスト破りである。

 野田首相が八ッ場ダム予算執行の前提として示したこの二要件は、藤村修官房長官が、予算計上を認めない前原誠司民主党政調会長と河川官僚言いなりの前田武志国土交通相の対立した見解を仲裁すべく、一二月二二日午前に示した裁定に記載されていた。

 藤村長官は二二日一五時半からの官邸会見で、「昨夕、党からの申し入れを受け、今日、判断する上で踏まえるべき事項ということで裁定事項を提示しました。政調会長、国交大臣が、それぞれが裁定を一言一句その通り受け入れるということで私の任務は終わった」と述べた。しかし問題はその解釈とその後の経緯である。

 前原氏はこれを「要件を満たさなければ予算計上を認めない」と解釈。しかし、前田国交相は同日夕方の会見で事業再開を発表した。しかも記者クラブ幹事社の協力により関連質問を二問で切り上げ、会見場から立ち去ろうとした。「午後二時前に行なわれた国交省政務三役会議で八ッ場ダム事業の継続を決定し、三時からの閣議後の閣僚懇談会で全閣僚に報告した」と重大なマニフェスト違反について発表したにもかかわらずである。

 筆者は、会見室を出ようとする前田国交相に「水の権利を地域で融通しあって無駄を省くという水基本法案の理念と八ッ場ダム事業は矛盾しないか」と尋ねたが、「これから長野原町へ行く。議員立法に期待する」と言い残して大臣は部屋を出ていった。

 その日の二〇時、前田国交相が八ッ場ダム予定地である長野原町に現れ、群馬県知事、町長、自民党議員らの万歳三唱に首を垂れる映像が流れた。

 このやり方に対する驚きを次のように語ったのは中島議員だ。

「記者会見と同じ時間に、(民主党の)国土交通部門会議があり、奥田(建)副大臣が『継続』ということを言いました。しかし、(その前に)『大臣が地元に入る』と群馬県知事や町長に連絡がいったというメールが地元の報道機関から来ていたんです。『そういう話が来ているけど事実はどうなんだ』と副大臣に聞いても何もわからない。われわれは知りませんと。おかしいと思いませんか」

12月7日「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」で挨拶する前田武志国土交通相。(撮影/まさのあつこ)

 こうした茶番劇が、国家予算の決定プロセスで執り行なわれたのは深刻だ。大きな問題が二つある。一つは政調会長と国交相が「一言一句その通り受け入れ」たと官房長官が語った裁定が書き換えられたことである。実は官房長官裁定案は二つあった。報道された裁定は八ッ場ダム本体工事について、「河川整備計画の策定」と「生活再建に関する法案の国会提出」の「二点を踏まえ、判断する」とされている。

 しかし、筆者は公になっていないもう一つの裁定原案を入手した。それには、「二点が策定された後に、八ッ場ダム本体工事着工の是非について判断する」と書かれている。野田首相の二九日の発言はこの考えに沿う。しかし、いったんは原案にあった「策定された後に」という文言が二二日には「踏まえ」という玉虫色に塗り替えられ、それが前原政調会長の解釈と、それとは矛盾する国交省政務三役会議での事業継続の決定や全閣僚への報告につながった。

 二四日の正式な予算の閣議決定前の既成事実化を容易にさせた裁定に書き換える小細工を行なったのは誰か。官房副長官を務める竹歳誠前国土交通事務次官に尋ねたいものである。

もう一つは政権与党における合意形成も多数決もなく予算計上が決まったことである。治水のあり方の転換、水余りのムダ、工期延長、費用増大の諸問題の解として八ッ場ダム中止が公約されたはずが、最終段階で本質論を脇に置き、予算計上か先延ばしかの矮小化された議論に追い込まれた。幸か不幸か河川整備計画の策定には住民の意見を反映させることが一九九七年改正河川法の極意である。政府は今こそその王道に立ち戻り、国民の意見に耳を傾けるべきだ。

(まさのあつこ・ジャーナリスト、1月13日号)

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