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【石坂啓の風速計】 フィクションのネタばらし

2011年10月26日2:49PM

『犬神家の一族』の封切りを映画館で観ていたときのこと、始まってまだ間もないというのにスクリーンの登場人物に向かって、「こいつが犯人だよね」とささやく後ろの客の声が聞こえてしまった。

 ……殴ってやりたかった。今でこそ何度もテレビで再放送され「スケキヨ~」がギャグにもされみんなが知っているお話ではあるが、当時は横溝正史ブームに火がつきかけたところ、私は角川書店の映画戦略に素直に従って「映画を先に観る」のを楽しみにしていた派だったのだ。ブチ壊しにされたあの悔しさを今でも忘れられない。

 ミステリーや謎解きのネタばらしは言語道断であるが、普通の映画紹介でも気をつけていないと台無しにされる恐れがある。やはり学生時代のころ、話題作の『カッコーの巣の上で』を楽しみにしていたのに、ふと目にした雑誌のコラムにこのラストシーンが延々と描写されていたのだ。

「○○が○○して○○に向かって○○する映像は感動的である」……とかなんとか……(まだ観たことのない読者のためにアイマイにさせていただきます)。読みかけてイカン/と気づいたときにはもうバッチリ頭に焼きついてしまい、おかげで映画館に足を運んだときには「ああ、○○が○○しちゃうんだなァ」と最初から最後までどっチラケ。思い出しても腹が立つ。

 最近ではシナリオ教室に通う友人から、講義の時間に映画『アフタースクール』の最初と最後を観せられたーときいて、笑ってしまった。いかんだろ、それはァ~。堺雅人くん出演のこの作品は近年イチオシと言ってもいいくらいおもしろいデキで、「やられました~」という気もちにさせられる完成度の高い脚本。教師が教材に使いたい気もちはよーくわかるが、友人にとってはもうコンリンザイこの映画を白紙で楽しむことはできない訳で、なんだか気の毒である。

 フィクションの世界でのネタばらしはご法度だが、現実社会では逆。菅さんの頭の中のシナリオをききたい。迷走劇に終息はあるのか、民主党は脚本を練っているのか、原発事故のいちばんの犯人は誰なのか。

 日常生活に終わりはない。日々の営みに山や谷の起伏はあっても、物語はいまも進行中。でも原発問題にはラストシーンが必要だ。ここで終わり、さよなら、拍手なし。こんなに長い恐怖映画は要らない。

(7月8日号)

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