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普天間めぐる日米首脳会談で深刻な擦れ違い――キャンベル氏がマスコミ誘導か

2011年10月12日8:10PM

 日米首脳会談の発言内容をめぐって深刻な擦れ違いが起きている。きわめて異例な事態だ。

 九月二一日昼(日本時間二二日未明)、米ニューヨークの国連本部で日米首脳会談が開かれ、普天間移設問題についてオバマ大統領が〈「結果を出す時期に近づいている」と進展を強く要請。首相は沖縄県民の理解を得るために全力を挙げる考えを示した〉(『日本経済新聞』二二日夕刊)とされる。

 各紙ほぼ同様の報道。時事通信は臨場感にあふれる。〈「結果を出す時期が近づいている」。大統領は首相との会談で、時間を惜しむかのように本題に切り込んだ。首相同行筋によると、クリントン米国務長官ら同席者が自己紹介をする間もなく、大統領は強い口調で普天間問題を進展させるよう首相に詰め寄ったという〉(同社HP)

 翌朝刊で野田佳彦首相に結果を出すよう迫る社説も多い。〈ラストチャンスの覚悟で、外交の立て直しに本腰を入れるべきである〉(『毎日』)、〈普天間飛行場の辺野古移設が実現しなければ、危険な現状が固定化するし、在沖縄海兵隊のグアム移転にも悪影響が出る。政府は、移設の前進へ沖縄県との協議を加速させなければならない〉(『読売』)、〈首相は「日米が基軸」といった常套句を繰り返すだけでなく、速やかに結果を出すべきだ〉(『産経』)。

 ところが野田首相は二二日夜、インターコンチネンタルホテルで同行記者団に次のように語っている。入手したメモによるとこうだ。

記者 普天間移設問題は、オバマ大統領に結果を求められたと聞いている。

首相 (首をひねる)

記者 具体的な進展と結果を求められたと聞いているが……。

首相 こちらの立場を申し上げました。昨年の日米合意にのっとってやっていくということで、沖縄の負担軽減を図りながら、普天間で固定化しないようにしていかなければいけないと。そのためにも誠心誠意説明をしていくという話をしまして、(オバマ大統領からは)「その進展を期待している」という話はありました。

記者 結果を求められるような時期が近いという趣旨の米側のブリーフだった。

首相 進展を期待しているという答えだったと思います。

 カギは記者の「米側のブリーフ」という言葉。キャンベル国務次官補が記者会見で語った「Ithink both sides understand that we’re approaching a period where we need to see results, and that was made very clear by the President」(両国は結果を出す時期が近づいている、と理解している。その点は大統領が非常に明確にした=米国務省HP)を基に各紙が報道したのが真相だろう。

日米首脳会談で認識の違いが出るのはきわめて異例だ。(提供/AP・AFLO)

 擦れ違いが起こった可能性はふたつある。一つはキャンベル国務次官補が“嘘”を言ったか、もう一つは野田首相がオバマ大統領の言葉を忘れたかだ。ただ、外務官僚が同席する会談で、「結果を出す時期が近づいている」との重要発言を失念する可能性は低い。野田首相は外交経験は少ないとはいえ、熾烈な権力闘争を制して首相に登りつめているのだ。

 防衛省に詳しい関係者はこう指摘する。「キャンベル発言は信用するな、が防衛省幹部の常識です。防衛大臣との会談内容と、その後記者に話すことがまったく違う。そもそも、オバマ政権に“日本通”が少ないので重用されているが、適格な人選かどうか疑問です」。

 だが、この擦れ違いを報じたのは『琉球新報』のみ。二二日夜の野田首相発言は“無視”されたのだ。しかも二六日の衆院予算委員会で、野田首相が「(記者に)ブリーフした方の個人的な思いが出たのではないか。大統領は『その進展に期待する』という言い方だった」と、大統領発言を否定しても、最初の報道と同じ大きさで扱う新聞はなかった。

 当初の報道を自ら否定する記事は難しいのだろうが、発言内容によって外交方針は変わる。だからこそ、大統領発言を“捏造”したとすれば、キャンベル国務次官補には退場いただくしかない。

(伊田浩之・編集部、9月30日号)

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