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揺れ動く山口県上関原発建設計画――原発建設工事、事実上不可能に

2011年7月15日12:16PM

「すわっちょる議員、恥ずかしくないんか」「金よりいのちよ」

 六月二二日一四時半。起立する三人の議員のまわりで、八人の議員が身じろぎもせずすわっていた。「起立少数です。よって、上関原発建設計画を白紙撤回するよう決議することを求める動議は否決されました」。山口県上関町で計画の白紙撤回を求める動議が否決された瞬間、満員の傍聴席から冒頭の声があがった。

原発計画の白紙撤回を求める決議には3人しか起立(賛成)をせず、8人の議員は身じろぎもしなかった。(撮影/東条雅之)

 近隣の市町議会では、五月二七日の周南市議会を皮切りに原発計画の中止・凍結を求める意見書の採択が相次いでいる。先の動議を提出した清水敏保議員によれば、上関町でも全員協議会で意見書案の作成を提案し検討したが実現に至らなかったため、動議を提出することになったという。だが、中国電力の上関原発計画をかかえる上関町では異なる結果となった。「上関町は原発誘致の責任自治体として、事故が起きれば……上関町民や周辺自治体の住民も住めなくなるような原発を誘致するより、ここでいったん立ち止まって考え直すべき」という意見は、「白紙撤回をするような動議を上関町議会が採択することは、三〇年近く原子力発電所建設による町づくりを掲げ取りくんできた住民の思いと、山口県が言い続けていた『町の政策選択を尊重する』考えに相容れないもので、当事者の上関町議会は弱腰になってはならない」などの意見に阻まれた格好だ。

 ただし、それは原子力エネルギーを是とするという意味ではない。六月二一日の町議会での柏原重海・上関町長の発言を引けば、「上関原子力発電所建設を推進しているのは、あくまでも原子力発電所立地によっての町の財政の安定、産業基盤の強化、福祉の向上等を求めるがため」。上関町にとって原子力は「大きな財源」(柏原町長)として存在している。

 しかし福島第一原発事故が三カ月たってなお収束の途も見えない現在、「財源を生みだすであろう原子力発電所が地域崩壊をも生みかねない。原発は財源だけの問題では済まない」(山根善夫・上関町議員)ことは明らかだ。また、大きな財源への依存が高ければ危機管理の面で脆弱さも伴う。上関町は二五億円の原子力発電施設等立地地域特別交付金を財源に総合文化センターやふるさと市場の事業を計画してきたが、来年度以降の原子力発電所建設にかかる国の交付金等について予測がつかない。

 六月二一日の上関町議会で柏原町長は「今後、国の原子力行政の見直しが当然ある。原子力財源あるなしにかかわらず、選択の道を幅広く持っておく必要がある」と、遂に原発なしの町の将来像について言及するに至った。

 六月二二日からはじまった山口県議会では、約一カ月前には六月の県議会で上関原発計画にかかわる県の意向を示すとしていた二井関成県知事が直前になってトーンダウン。初日は言及しないまま終了した。同日の上関町議会の閉会では、今期限りの引退を表明していた柏原町長が次のような挨拶をした。

「町の今後の情勢について予測のできない事態になりました。原子力問題については今後、国の方で対応されると思いますが、町民の暮らしは一日も待てません。現在、町が置かれている状況を直視した時、危険的な岐路に立っている状況を男として見て見ぬふりをするわけにはいかないと考え……この秋の町長選挙に出馬することに致しました」

 この週、上関原発予定地から四キロメートルの対岸に浮かぶ祝島では毎週月曜の定例デモが通算一一〇〇回目を迎えた。梅雨の晴れまに差しこんだ夏至の季節の明るい夕陽のもと、島人たちの声が路地に響く。「きれいなー、海をー、守ろーう、エィエィオー」。

  そして六月二七日の県議会。二井県知事は、上関原発の建設工事に必要な公有水面埋め立て免許の延長を認めない方針を示した。事実上、同原発の建設は不可能な状況となった。

(山秋真・ライター、7月1日号)

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