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小泉・竹中改革の“モデル”が破綻―― 「木村剛銀行」事件の底知れぬ闇

2010年7月28日4:03PM

 自らが作成に携わった金融検査マニュアルに違反し金融庁の検査を忌避(妨害)――竹中平蔵元金融担当大臣の懐刀として不良債権処理に辣腕をふるい、その後日本振興銀行(以下、振興銀)に会長として君臨した木村剛容疑者(四八歳)が逮捕された容疑は皮肉なものだった。

 七月一四日、警視庁捜査二課は前会長の木村容疑者をはじめ、振興銀社長・西野達也容疑者(五四歳、逮捕後解任)ら計五名の振興銀幹部らを、金融庁の立入検査の際、電子メールを削除して検査を妨害した検査忌避の疑いで逮捕した。木村容疑者は容疑を否認し、他の四人は認めているという。

 逮捕された木村容疑者は、一九八五年に東京大学を卒業し、日本銀行に入行。主要部局を歴任後、金融コンサルタントとして独立する。

 小泉政権時代の二〇〇二年一〇月から金融庁の顧問になり、いわゆる竹中チームの一員として金融政策立案に関与。厳格査定と不良債権の迅速処理を迫り、銀行経営者を震え上がらせた。

 ところが木村容疑者のコンサルタント会社は、〇三年五月、振興銀の設立準備会社社長から、新銀行設立に関する「金融庁との交渉戦略」をアドバイスする契約を交わし、「コンサル料」として一億円を受け取る。木村容疑者は、設立準備会社が金融庁に銀行業の予備免許を申請する同年八月二〇日まで金融庁顧問をしていた。

 税金で報酬を支払われ守秘義務を負う金融庁顧問が、一方で既存の銀行を追い込みながら、他方で新銀行設立のため、自らが属する金融庁との交渉法を指南し高額の報酬を得る。構造改革のモデルとされた振興銀発足の陰で、木村はマッチポンプで稼いだのだ。

SFCGと振興銀
その“ただならぬ仲”

 既存の銀行からお金を借りられない中小企業のために、無担保で融資する。貸倒リスクが高い点は、やや高い金利をもらうことでカバーする――これが、振興銀が当初描いたビジネスモデルだった。

 同行取締役の一人は筆者の取材に、「金利五~一五%の中小企業向け融資を中核に据えた銀行は前例がない。いわば銀行業におけるベンチャービジネスだ」と語った。

 石原慎太郎東京都知事の肝煎りで設立された新銀行東京も同じような旗を掲げ、一足早く経営危機に陥った。同取締役は「ベンチャー」の経営が「起業家とは正反対である役人にできるはずがない」と “石原銀行”を切り捨て、「それに引き換え、振興銀は悪戦苦闘して生き残る道を見つけた」と説明した。

 生き残りを賭けて振興銀が選んだのは、消費者金融や商工ローンなどノンバンクから債権を買い取って融資残高を膨らませる道だった。〇七年三月には約二八〇億円だった融資残高は、〇九年三月末には三一三四億円に急伸する。

 なかでも “ただならぬ仲” になったのが、商工ローン最大手SFCG(旧商工ファンド、大島健伸前会長、〇九年二月経営破綻)だった。多数の元SFCG社員が振興銀に入行し、荒稼ぎの手口を伝授する。SFCG元幹部が明かす。

「ある芸能プロダクションは、振興銀から売掛先に債権譲渡通知を打たれてつぶれかけた。仕組みをつくったのは、うちから行った人間だ。大島と木村も深い仲で、一時は大島が、振興銀の朝礼であいさつするほどだった」

 貸金業者に勤めた経験もある、ある元行員も「振興銀の支店では、朝から晩まで融資勧誘の電話営業をさせられました。法律ぎりぎりの高い金利で、銀行ではなく、まるで商工ローンでした」と話す。

「銀行の看板で商工ローンをする」戦略には、落とし穴もあった。ノンバンクが抱えている不良債権が振興銀に移動し、自己資本比率が低下することだ。

 SFCGに至っては、先に複数の信託銀行に譲渡していた債権を、素知らぬ顔で振興銀に二重(一部は三重)譲渡した。その額は約七〇〇億円。二重譲渡債権が信託銀のものとなったら、振興銀は一挙に債務超過に陥りかねない。

 だが、こうした危機的状況は、これまで決算に反映されていなかった。そこでフルに使われたのが、木村容疑者が理事長を務める「中小企業振興ネットワーク」に組み込んだ融資先=親密企業群だ。

 カラクリは二つある。自己資本比率を計算するとき「分母」となる不良債権を減らすことと、「分子」となる自己資本を増やすことである。ただしどちらも、きわどい帳簿操作だった(左の図参照)。

 すなわち一つは、親密企業群にキズモノ債権を飛ばすことだ。SFCGからの二重譲渡債権の一部は、アラバマ・キャピタル、アリゾナ・キャピタルといった名ばかり会社に「譲渡」され、帳簿から外された(本誌二月五日号参照)。

 もう一つは、振興銀がノンバンクを営む親密企業A社に融資し、A社が別の親密企業B社に融資。B社が振興銀の増資を引き受ける、という「振興マネーのぐるぐる回し」だ。もともと自分が貸したカネを資本に組み入れるのだから、実のある増資とは考え難い。

 いくら融資を受けたとはいえ、自社の経営を大きく損なう飛ばしや架空増資まがいの行為に、なぜそこまで協力するのか。ある親密企業の元幹部はこう証言する。

「振興銀から借りたカネで親密企業が互いに株を持ち合わされた上、社長人事を握られていました。中小企業振興ネットワークは『連結人事』で、振興銀で採用して割り振られる。『社長の人事異動』も頻繁で、レオパレスが社宅でした」

 ちなみに、木村容疑者と一緒に逮捕された西野容疑者も、みずほ銀行を退職して振興銀に入行。〇八年、同行が買収した消費者金融アプレック(現、中小企業信用機構)に会長として“派遣” され、〇九年六月、振興銀に戻って社長に据えられた。西野容疑者の前任社長は、西野容疑者と入れ替わりに中小企業信用機構の社長に就いた。木村容疑者の絶対権力の前に、中小企業振興ネットワーク各社の社長の座はいかにも軽い。

 こうして木村容疑者は、決算上は連結でないものの、実質は人とカネで縛られた親密企業群を自在に操って、振興銀の帳簿をピカピカに見せ、グループ内で融資をぐるぐる回しながら荒稼ぎしてきた。

 振興銀が削除したメールには、親密企業群とのやりとりも含まれているとされる。警視庁が「不正の全容」にどこまで迫れるか。捜査の進展が注目される。

論客としての重用
懲りないマスコミ?

 こうした不正ビジネスを許してきた背景には、金融行政に対する竹中氏の威光とともに、木村容疑者を論客としてもてはやした一部マスコミの姿勢があった。田原総一朗氏の司会で知られるテレビ朝日系の「サンデープロジェクト」(サンプロ、今年三月に終了)では、〇八年二月、「どうなる? 日本経済」という特集を組み、竹中氏と木村容疑者をスタジオに出演させた。

 竹中氏と木村容疑者は、グレーーゾーン金利と過剰融資を禁止した貸金業法等の改正によって「コンプライアンス不況」(木村容疑者)が起きたとし、金利など「市場経済の大原則のところを縛っちゃいけない」(竹中氏)と高金利自由化論をぶった。グレー金利をたっぷり含んだ債権を買って稼ぐ「銀行」のトップが「グレー金利規制撤廃」を唱えるとは実にわかりやすい “ポジショントーク” だが、それを公共の電波で垂れ流したのは見識が疑われよう。

 強制捜査が始まる一週間前、木村容疑者は金融庁から処分されたことなどに対し「これは天から与えられたチャンスである」とうそぶいた。それに呼応したわけでもあるまいが、木村容疑者を重用していたテレビ朝日は、逮捕四日後の一八日、サンプロ後継番組で、橋下徹大阪府知事が旗を振る「貸金特区」(違法高金利を大阪では認めようという構想)を好意的に紹介した。一つの事件が弾けても、懲りない面々の蠢きは終わらない。

(北健一・ジャーナリスト)

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