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右派系団体の抗議で『ザ・コーヴ』上映自粛――「表現の自由守れ」と緊急上映会

憲法21条を読み上げるリック・オバリー氏。(撮影/ゆげたりえ)

「日本は憲法二一条で言論・表現の自由が保障されている」とリック・オバリー氏は、日本国憲法二一条が書かれたボードを手にしながら、観客五五〇人を前に主張した。映画『ザ・コーヴ』(初夏、全国順次ロードショー予定)のプロモーションのために来日したオバリー氏は、同映画の出演者であり、イルカ解放運動の世界的な活動家として有名な人物だ。

 九日、東京・なかのZERO小ホールで開催された「映画『ザ・コーヴ』上映とシンポジウム」(月刊『創』主催)には、映画を観ようと各地から六〇〇人近くが詰めかけた。当日券を求めて会場前には長蛇の列。中に入れず、帰った人も多くいたという。

『ザ・コーヴ』は、和歌山県太地町で行なわれているイルカ漁を舞台としたドキュメンタリー映画だ。本来であれば六月二六日から、東京ではシアターN渋谷とシネマート六本木で、大阪ではシネマート心斎橋で公開が予定されていた。しかし、右派系団体による映画館への度重なる抗議の電話や、街宣活動の予告があったことなどから六月上旬、映画館は相次いで上映中止を決定した。

 配給元であるアンプラグド社や同社の加藤武史社長の自宅近辺でも右派系団体が街宣・抗議活動を行なったため、東京地裁は団体に対して街宣・抗議活動を禁止する仮処分を四月に下したばかり。しかし、六月一二日には、上映が予定されている映画館・横浜ニューテアトルに対して右派系団体は街宣・抗議行動を実施している。

 九日のシンポジウムでは、篠田博之『創』編集長が「(上映中止を決めた)映画館は街宣行動を実際にされたわけではない。何月何日にかけるぞ!! と言われ自粛した。映画『靖国』の上映中止の時と全く同じ」と、二年前に起こった「表現の自由」をめぐる事件に触れ、「当時メディアは騒いだが、時間が経ってまた同じことが起こっているのは、メディアにも責任がある」とした。

 前日に映画の舞台となった和歌山県太地町で取材をしてきたというジャーナリストの綿井健陽さんは、「憲法二一条は誰が誰に対して言うものなのか。対国家権力に対してと、太地町の人々に言うのとでは違うのではないか。太地町の住民は映画を撮った人たちが言う『表現の自由』って何なんですか? と言っていた」と太地町住民の話を紹介し、住民の意見も聞くべきではないかとした。

 当日、会場では、当該の右派系団体からきたという男性が、『ザ・コーヴ』上映に反対するチラシを配っていたが、「抗議(表現)の自由は認められて当然。だから、映画をつぶせというチラシを撒くことは認めた。しかも、この会場のような絶対的なアウェイで撒くのはなかなか……。しかし、それと実際に実力行使で映画をつぶす、ということは違う」と篠田氏は指摘した。

 チラシには、「『ザ・コーヴ』は日本人に対する人種ハラスメント。映画に表現の自由を認めてはならない」などとして、「食肉加工センター(食肉処理場)」での牛を例に上げ、生き物を殺す神聖な仕事があって人間社会は成り立ってきたと主張。そして、この領域はどの国でも「アンタッチャブルな領域」と呼ばれているとして、イルカ漁でのイルカを殺す漁師の姿を撮影し公開することが「表現の自由」なのかと訴えている。

「今回の件は、議論を分けて考えるべき。映画上映の問題、イルカ漁・鯨漁の問題、ドキュメンタリー手法の問題が一緒くたに語られてしまっている。映画については、僕の周りでも賛否両論ある。しかし、それと映画上映の問題は別」と野中章弘アジアプレス代表は、言論・表現の自由については譲歩できないとした。 

 挨拶に立ったアンプラグドの加藤社長は「映画は映画館がないと見せる場がありません。是非、勇気をもって、この映画を上映する場を与えていただきたいと思っています」として、今後公開が予定されている映画館に対しての支援を呼びかけた。

(ゆげたりえ・編集部)