原発事故が大公害を引き起こすとは知っていたが、二〇一一年に事故を起こすとは予測してはいなかった。ただエビデンス(証拠)型であり予測に弱い科学の限界は自分なりに感じていた。だから高いリスクを抱えたままの原発は廃止すべきと考えていた。

科学技術についてそう考えたのは世界金融危機の二〇〇八年が契機だ。この時、数学や金融技術工学の秀才が作り上げてきた仕組みが虚構だと暴露された。彼らはマズい科学者の例に漏れず、過去の成功例をかき集め、自分と他者を洗脳することに腐心して、リスクを軽視した。そうして世界中に毒債権をばらまき、自ら破綻していった。

歴史主義を批判する哲学者カール・ポパーの言葉通りだった。その後、世界はリスクについて考えをあらためると私は楽観していたが、そうではなかった。リスクについて学習することを人は嫌う。

 ただ今回の原発事故後、リスクと向き合ってきた科学者たちの存在が広く知られた。市民科学者とも呼ばれている人たちである。

(平井康嗣)

民主党の新しい党首、つまり新しい総理大臣が月末に決まるが、

編集長後記

 民主党の新しい党首、つまり新しい総理大臣が月末に決まるが、
全く気分が盛り上がらない。

筆頭候補にも挙がっている野田佳彦という人はかねてから首相候補者と取り沙汰されてきた人だが、地味で何を考えているのか今ひとつ見えない。

さらに財務省路線かつ保守的な性向は今ひとつ気に入らないが、この人が繰り返し強調してきた次の点はおおいに支持できた。

〈子どもの貧困は発展途上国や敗戦直後の日本の社会問題ではなく、極めて今日的な問題だと認識しなければなりません。だからこそ、「子ども手当」や「高校の無償化」は断じてバラマキではなく、必要な投資だととらえるべきです。〉
(二〇一〇年二月二一日の野田氏のブログ「かわら版」より)。

 民主党が政権交代をなしえた原点は、見捨てられていた集団への目線が存在したことである。しかし大連立という禁断の果実を横目に、「バラマキ」を廃止する方向で野党と妥協した。

 政府を選べない怒りが、無政府への衝動に変わるのが怖い。
(平井康嗣)

再生可能エネルギー法案も八月中に成立の見込みだ。

編集長後記

 原発と両立することから、もともと成立する可能性があった再生可能エネルギー法案も八月中に成立の見込みだ。成立すれば首相辞任の条件が揃うので菅政権は惰性状態にある。

 一五日の敗戦記念日、靖国神社に、自民党の国会議員などが参拝する中、官邸では原子力安全庁が閣議決定された。四〇〇人もの職員を抱えるとも言われており、原発は依存度を低減させるというが暫く維持されていく。生ぬるい。かつて戦争に突き進んだ日本は男が牛耳り、原発の後始末も男中心で幕引きされた。その菅内閣では、最後には女性閣僚が一人もいなくなっていた。この点においてだけでも首相の鈍感さが、十分ににじみ出ていると思う。

 福島や関東で、原発事故が引き起こした放射能汚染から子どもたちを守ろうと、中心でたたかってきたのは母親ら女性たちであった。この意味を首相は考えたのだろうか。結局、菅首相は国民の未来を見詰めようとしていたのか大きな疑問がふつふつとわくのである。政治は結局、財務省主導で進みはじめている。(平井康嗣)

七月二七日の衆議院厚生労働委員会で、参考人として児玉龍彦・東京大学アイソトープ総合センター長が放射線の健康への影響について意見陳述をしたことが感動をもって話題になっている。歯に衣を着せぬ熱弁だから当然だ。速記録からいくつか引用する。
「まず、熱量からの計算では、広島原爆の二十九・六個分のものが漏出しております」「これまでの知見で原爆による放射線の残存量と原発から放出されたものの放射線の残存量は、一年たって原爆が千分の一程度に低下するのに対して、原発からの放射線汚染物は十分の一程度にしかならない」「内部被曝というのは、先ほどから一般的に何ミリシーベルトという形で言われていますが、そういうものは全く意味がありません」「緊急に、子供の被曝を減少させるために新しい法律を制定してください。私のやっているのは、すべて法律違反です」
 東大は地元民のために高線量の放射性廃棄物を持って帰っているというのだ。衆議院のwebテレビをぜひ傍聴してほしい。 (平井康嗣)

 私が政治家や官僚だとしたら政権が移っても、容易に変えられない仕組みをつくろうと考える誘惑にかられるだろう。憲法学では改正しにくい憲法を硬性憲法、改正しやすい憲法を軟性憲法と分類する。日本国憲法は硬性憲法であるが(そのため憲法改正条項を緩和させたい国会議員は多い)、このような後戻りが効きづらい硬性な制度・仕組みという意味である。よい意味でそのような仕組みが作れればよいが、日本の政治はほとんど負の遺産の押しつけ競争である。自民党政権がつくった膨大な借金(麻生政権は最後に約一五兆円の補正予算をばらまいたし)やダムはそうだし、数万年の管理を強いる原発は典型的なソレだ。このような類は法改正によって無くすことは至難の技である。消費税も導入したら、じわじわと上がる一方だ。税と社会保障の共通番号制も同様だ。それを菅政権は今やろうとしている。憲法を変えやすいようにと主張する政治家は、他法や政策も柔軟に転換が効くような設計をまずは心がけるのが筋だろう。 (平井康嗣)

関東では七月二一日から、子どもたちは夏休みだ!

 関東では七月二一日から、子どもたちは夏休みだ! しかし、今年の夏休みは子どもたちにとってまことに不自由である。外に出て自然のある場所で思いっきり遊びたいだろうが、そういう場所ほど、放射線量の数値が高いから。
 私の周辺では、待っていましたとばかりに東京を離れて九州の実家に子どもを連れて帰る母親や、これをタイミングに八月から北海道に移住する家族もいる。無論、東京電力福島原発事故による放射能汚染を嫌ってのことである。西日本に住んでいるとぴんとこない人もいるそうだが、それが関東では当たり前のことになってしまっている。
 関東でこういう事態なのだから、福島の家族はもっと大変である。しかし、せっかく難を逃れて移住しても福島から来たということで嫌がらせを受けたりもしているとも聞く。まったく許し難い話である。自治体や地元メディアは放射線被曝について正しい情報を十分に伝えていかなければならない。私も、後知恵講釈にならないよう今やるべきことを考える。 (平井康嗣)

原発の料金の話や電力供給量の話をあらためて記事にしました

今週号では原発の料金の話や電力供給量の話をあらためて記事にしました。ただ、だから原発はいらないということを主張する企画でもありません。おやっと思うかもしれませんがこの点重要です。高い・足りないということを争点にすることは原子力による電力が安ければヨイ、供給量が不足していたら原子力がやっぱりヒツヨウ、という間違った議論におちいるからです。
 原子力は、ウラン採掘から原発の運転まで、被曝労働を必要条件とする差別の是認によって成立しています。ですから、これだけでまず賛成することはできない代物です。 
 さらに、管理を何世代もの人に負わせる放射性廃棄物を生み出す。維持管理のコストを考えない作ったもの勝ちのハコモノ的構造があるわけです。いや、ハコモノより悪質です。放射性廃棄物は放置しておけません。この原発という永久金喰い装置を考えた政治家、電力、電機はなんとウマイもうけ口を考えたと自画自賛したことでしょう。いよいよその責任をとらせなければいけません。 (平井康嗣)

千葉県のある市も市内約一三〇カ所の計測結果を発表している

 最近は、それぞれの自治体が独自に放射線量を調べていて、私の住む千葉県のある市も市内約一三〇カ所の計測結果を発表している。それを見ると、私の住んでいる町は自分で測った0・25マイクロシーベルト程度とほぼ同じ結果だった。高い数字を出したのは木に囲まれた公園や人工芝を使った陸上競技場など、私がロードワークなどで好んで訪れている場所だった。このような場所は、子どももよく遊びにくるが、0・44マイクロシーベルトなどとけっこうな数値が出ており、まことに残念に思う。横浜市港湾部の工場地帯周辺に住んでいたときは三年で喘息を発症し、環境のよいところで暮らそうと思って引っ越してきたのにこのざまだ。放射性物質と暮らす日々はしばらく続くがどうしようか。東京電力に白紙委任し、株主総会で原発推進に賛成した大株主の生命保険会社(リスクにもっとも敏感な職業であるはずなのに!)は、放射線量の多い地域に暮らす人を生命保険や医療保険、がん保険の加入などで区別したら許さないぞ。 (平井康嗣)

 今週号は久々にトヨタ自動車に関する記事を入れた。当時の北米トヨタは、今の日本における東京電力のようなものと想像してもらえればいいかもしれないが、この問題はいまだに終わっていない。
 人命に関わる事故、閉鎖的な企業文化、消極的な情報公開、リーダーシップの欠如などなど。あらゆる点で批判され、社会問題になる条件をお釣りがくるくらい揃えていた。米政府は、トヨタについて公式に二つの機関に検証調査を依頼。一方、トヨタ自ら調査委員会を設置、市民団体も検証した。東電事故においてもせめて同等規模の検証調査をし、かかった費用は税金ではなく、東電が制裁金として政府に支払うのがいいだろう。
 中でも、厳しく追及したのが、ラルフ・ネーダーとチルドレンたちである。
 ネーダーを有名にした一つは、{Unsafe at any speed>(『どんなスピードでも自動車は危険だ』)という本だ。東電に置き換えれば、「どんな原発でも危険だ」となろうか。リスクへの構えは、かように必要ではないか。 (平井康嗣)

被災状況調査アンケート

六月初旬、当社では被災地となった岩手、宮城、福島の定期購読者のみなさんに、「被災状況調査アンケート」を実施しました。被災された定期購読者の方々がおられることは間違いなく、現況が非常に気になっていたからです。いただいたアンケートの返信ハガキのメッセージ欄には多くの方の声をいただき、本当にありがとうございました。僭越ではありますが、一部を紹介させてください。

「自宅は原発より二二㎞の所です。不安な毎日を送っています」
「原発事件では毎日放射線量を確認して生活しています」
「こどもは外で遊べず、成長に必要な経験をさせてやれません! 人生が狂ってしまいました」
「津波では多くの友人、知人の悲惨な状況を知り、只痛哭するのみです」
「今後も被災者の目線での報道を期待します」
 など、たくさんの現況報告やメッセージをいただき、私たちが反対に励まされました。さらに気を引き締め報道を続けていきます。 (平井康嗣)