編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

最後のセンター試験

 最後のセンター試験がこの週末に行なわれた。小さなミスはあったようだが、ほぼ滞りなく終了したようだ。

 批評家の若松英輔さんが国語に出題された原民喜の「翳」をめぐり、ツイッターで発信されていた。私は恥ずかしながら読んだことがない。わが家にも受験生がいるので「翳」について聞こうとしたところ、堰を切ったように泣き出した。試験の緊張が解けたせいもあるのだろうが、悲しい話に弱い娘はただただ号泣するだけ。そして一言「××がかわいそう」。新聞に載っていた試験問題を家人が探して読む。「で、どこに○をしたの?」。受験生曰く、「間違っていたら××が憎らしくなるから知りたくない」。

 若松さんはこういう。「もし解答が誤っていることに悩んでいるなら、こう言いたい。『君は、原さんの言葉を超えて、原さんの心にふれたから間違えたんだ。文字上では誤りでも、君は、意味の世界では『正解』以上のことを経験したんだ』」。この言葉をそっくり、我が家の受験生にも送りたい。

直視する必要

 昨年末、閣議決定した海上自衛隊の中東派遣は、野党の反対を押し切り強行された。また、安倍晋三首相の中東訪問は、米・イラン関係が最悪の事態を免れたことで実施。今日の朝刊ではサウジアラビア皇太子との会談の模様が伝えられた。

緊張緩和のために安倍首相が皇太子に外交努力の必要性を訴えたという記事を読むと、鼻白む思いがする。

 安倍首相は武器輸出三原則を緩和した張本人。昨年開催された武器見本市の記事を今週号で載せているので特にひっかかる。一方、皇太子は無罪となったが、自国の反体制ジャーナリスト、カショギ氏の殺害事件で側近の関与が疑われていた。会談の裏で一体どんな話がなされたのか。

 ウクライナ旅客機墜落の原因がイランによるものであるとわかった。あまりにも大きな犠牲だ。2014年、ロシアがウクライナ上空でマレーシア航空を撃墜した事件の現場写真を「世界報道写真展」で見たことを思い出す。目をそむけたくなる写真だったが、だからこそ直視する必要があったと今は思う。

自由を愛した北村さん

 年末年始に重大ニュースが飛び込んでくるのは例年のこと。だが、今年は余りに多い。

 さらに私たちには別れもあった。前発行人の北村肇さんが暮れに逝去したことだ。会社を離れたのは一昨年の9月。その後もこんなメールを送ってくれた。「今日たまたま鶴瀬で小さな本屋を見つけました。入り口前の雑誌スタンドに『金曜日』がどんと置いてありました。思わず写真を撮りましたので添付します」

 私は誇らしくその写真を眺めた。その細やかな気遣いが嬉しかった。作り手が何を糧に日々、悪戦苦闘しているのか、痛いほどわかっているからだろう。どんな違いがあろうとも、北村さんはいつも私たちとともにあろうとした。

 昨年7月に書評原稿の執筆を依頼した。いったんは引き受けてくれたが、容体の悪化を理由に返上された。同月末からは、その連絡も代筆になった。

 自由を愛した北村さん、この世の中、息が詰まることばかりだったのではないですか。どうかゆっくりお休みください。

追ってご報告をしたい

 先週号で中村哲さんの追悼記事を掲載した。お忙しい中をゆかりの方から追悼文をいただくことができたこと、現地代表が亡くなりたいへんな時期にもかかわらず、ペシャワール会事務局が写真の手配など丁寧な対応をしてくれたことがありがたかった。

 ひとつ記事の一部に対して疑義が出された。「親切で誠実なタリバンの男たちに親近感」の文章の冒頭だ。

〈中村先生が用水路をつくったことで水が来なくなったという不満が国内や周辺国にもおよび、それは先生も感じていたはずです〉

用水路をつくったことでいずれかの地域に水が来なくなったという事実がそもそもあるのかどうか、どういう根拠でこういう発言をされているのか、という疑義だ。

 これは西垣敬子さんの追悼文だが、西垣さんは、本誌2002年6月7日号の「『金曜日』で逢いましょう」で登場いただいた方だ。〈一九九四年から毎年二、三回ずつ現地(ジャララバード)を訪れ(略)テントを贈ったり、放置井戸にポンプを付けたり(略)ミシン(略)糸を贈って女性たちに洋裁や刺繍を教えると目を輝かせた〉とある。中村さんとも接点があるという話を聞いて追悼文をお願いした。16年5月以降は現地に入ることができていないが、20回以上は現地を訪れている。冒頭の情報は、現地の大学教授らから得たものという。

 中村さんは、干魃に襲われたアフガニスタンに最初は井戸を掘った。だが、井戸は飲料水の確保にしかならないということで灌漑事業を手がけるようになった。この灌漑事業のおかげで農村が復興し、多くの人が食べることができるようになった。その一方で、冒頭のような事実があるのかどうか、アフガンやその周辺国の水資源に詳しい研究者に話を聞こうと考えたが、出張中で連絡がとれなかった。

 掲載前に確認をすべきであった。申し訳ない。年を越してしまうが、大事な問題なので、追ってご報告をしたい。

 年越し問題は他にもいろいろある。継続して伝えていきたい。

「慰安婦」問題

 今年もあと1号を残すばかりとなった。全体で68頁の雑誌だが、何ができたのか、できなかったのか。「桜を見る会」は、野党の追及に安倍晋三首相がほとんど応じないまま年を越すことになる。メディアとしてもっと追い詰められないのか、と厳しいお叱りの電話を戴いた。たしかに大事な局面だと考えている。

 今月6日、旧日本軍の「慰安婦」問題を巡り、内閣官房が2017、18年度に集めた資料を伝える共同通信配信の記事があった。その中で「『軍の関与』を補強する資料と位置付けられそう」だとする資料は、ジャーナリストの今田真人さんが本誌17年11月24日号で発表されたものだった。

「軍用車に便乗南下……したる特殊婦女」「兵員70名に対し1名位の酌婦を要する意向」などと、1938年当時の外務省と在中国日本領事館の具体的なやりとりを詳細に紹介し、軍や官憲の「主体的」な「権力犯罪」と評している。

 三一書房から『極秘公文書と慰安婦強制連行』も出ている。関心を持たれた方はご一読いただきたい。

医療費増額

 仕事が終わり家に帰ると里芋がどっさり実家から届いていた。9月から3箱目になる。実家で作っているわけではなく、いい芋が近くの八百屋さんで手に入るということだった。里芋の汁でかぶれる私は皮を剥くのが難儀だ。

 さて、どう料理しよう。いっそ潔くふかして食べてみるか。しかし、こんなに重い荷物をどうやって配送手続きしたのか。めまいで転倒して膝を痛めたのは一昨年の冬のことだった。

 先日政府が75歳以上の医療費自己負担を2022年度から2割に増やす方向で調整をしていると報道があった。高齢者が必要以上に受診を控えるのではないかと心配だ。私の母の場合、医療ではないが月に二度、訪問看護を利用している。

 だが、本人は理屈をつけて止めたがっている。「勿体ない」がホンネだろう。しかしこのタイミングで医療費増額とは。10月に消費税をあげたばかりじゃないか。

 よし、久々に「安倍さんは弱い者イジメ。腹が立って眠れんさ」という母の口癖を聞きに実家に帰ろうか。「桜」の疑惑もあるし。

桜とメディア

 2013年4月20日【午前】8時14分、東京・内藤町の新宿御苑。同15分、西村泰彦警視総監ら警視庁幹部、地元の後援会関係者らと写真撮影。9時1分、昭恵夫人とともに首相主催の「桜を見る会」(13年4月21日付『読売新聞』[安倍首相の一日]から)

 13年は安倍晋三首相が返り咲いて初の「桜を見る会」。「大切なのは(中略)また咲くということ。私ももう一度、花を咲かせることができた」と首相本人が政財界関係者や芸能人を前にして挨拶を述べたことが同紙前日の夕刊にある。

 晴れ舞台の喜びを後援会関係者と分かち合う姿が印象的だったから特筆したのだろう。だが、これを書いた記者は変に思わなかったのだろうか。税金で賄われる「桜を見る会」の会場に、首相の後援会関係者が現れ、時間前に首相と記念撮影をしていることを。会が始まったらいなくなるとでも思ったのかな。

 ひょっとしてメディア関係者も招待客に含まれていはしまいか。その可能性が1ミリもないメディア関係者は穿ったことを考える。

たっぷり親睦?

 在韓米軍の来年以降の駐留費負担の交渉で、今年の予算の5倍の提示が米政府からあったという共同の報道を先日目にした。GSOMIA破棄が影響しているのだろうか、日本もふっかけられるの? と心配していたら、2021年3月に期限を迎える日米協定の更新交渉で、現行予算の4・5倍の提示が米側から示されたとの報道が一部であった。やっぱり? 真偽の確認が先決だが、増額どころじゃないだろう。

 日米貿易協定の承認案が15日、衆院の外務委員会を通過、まもなく衆院本会議にかけられる。日本政府はウィン・ウィンの関係を強調するが、独自の試算で「負けが際立つ」との報道も(『朝日』11月17日付)。「ホルモン剤使用の危険な米国産牛肉が関税引き下げで日本に押し寄せる」と本誌は「くらし」欄で指摘(10月11日号)。生活の安全に直結する問題でもある。

 安倍晋三首相はトランプ米大統領とこの間たっぷり親睦を深めてきたようだが(?)、一体何の弱みを握られているのか。

身近な問題から

 この週末、中央アジア出身で、日本にしばらく滞在している女性と話す機会があった。おしゃべりな彼女が特に熱をいれて話したのが、日本の女性の職場での服装規定の問題だ。

 ネットやSNSで最近話題になっている眼鏡着用禁止を知り、驚いたようだ。「ダテ眼鏡じゃないんだから。私は眼鏡がないと何もできない」と訴える。実際コンタクトレンズは条件があわないと使えない。さらにハイヒール着用を強制しているところもある。

 これは、このページ「金曜日から」で宮本が書いているように、石川優実さんが#Ku Tooで異議申し立てをし、社会問題化した。「日本は先進国で民主的な国のはずなのに、なぜ女性だけ?」。それは私も聞きたいところ。

 彼女の国でもジェンダー差別の問題があるという。「ジェンダー問題が今世界で最も重要」、と明快だ。なぜハイヒールのことがこれまで問題にされてこなかったのか、いまとなっては不思議だ。「身近な問題から勇気を出して」。賛成だ。

「一件落着」とはならない

「結果としてはよかった」
 英語民間検定試験導入延期の件である。現場は混乱の極みと想像する。子どもが通う高校ではどんな反応かきいたところ、教員は前述の意見を述べたというのでほっとした。だが、制度導入の際の議事録が非公開、さらに国語・数学の採点についても問題があるので、「一件落着」とはならない。各地の高校生が集会などで、文科大臣よりも本質を捉えた説得力のある意見を述べていたことが心強かった。

 11月1日号の記事「米国LA市警の訓練に携わる俳優が語る事件現場とメディア」について補足説明をしたい。当該の俳優が訓練で演ずる”犯人役”は、精神疾患があるという設定になっているが、精神疾患をもつ人も、健常者と同様の生活を送っており、ハンディキャップの有無にかかわらず人はだれでも犯罪を行なう可能性がある。さらにこれは訓練全体の一部にすぎず、訓練は現実をそのまま反映したものではない。編集部でそのむね注釈を付けるべきだった。みなさまにお詫び申し上げる。