編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

解放

 長かった。沖縄平和運動センターの山城博治議長がようやく解放された。沖縄の米軍北部訓練場のオスプレイパッド建設の抗議行動に関連して山城さんが逮捕されたのが昨年10月。接見禁止を伴う長期勾留のなか、本誌編集委員をはじめ多くの人が声をあげた。保釈が決まり、拘置所前に集まった支援者から「沖縄 今こそ立ち上がろう」の大合唱が起こったという。公判は17日に始まったが、いろんな問題を考えてしまう。

 一つは閣議決定された共謀罪法案絡みだ。今週号で山下幸夫さんが書かれている。山城さんの逮捕容疑の一つに「威力業務妨害罪」があるが、今回の共謀罪の対象犯罪に「組織的な威力業務妨害罪」が含まれているからだ。共謀罪ができれば、「山城議長が『威力業務妨害』を行なう前に、警察が『それを誰かと共謀した』という容疑で逮捕できる」というのだ。山城さんの逮捕・勾留の異常さは明らかだ。しかし、それさえ権力の闇の中で見えなくなってしまう。この流れをどこかで押し戻したい。

頭を悩ます

 森友学園問題では学園側からの小学校認可申請取り下げ、そして籠池泰典理事長の退任、さらに朴槿恵韓国大統領の罷免、南スーダンからの自衛隊撤収など、目まぐるしい動きがあった。共謀罪法案の閣議決定は持ち越しになったが、取り組むべき案件が多くて、誌面作りに頭を悩ます。

 読者の方からは「森友学園問題を、蜥蜴のしっぽ切りで終わらせるな。しっかりと追及を」と激励の電話やメールをいただいた。安倍晋三首相が政治生命をかけて実現するとしていた“教育再生”の実態が、利権の構造も含めてあらわになってきたと言える。安倍政権を倒すため、編集部もいろんな角度からこの問題に取り組んでいる。

 山口泉さんの連作掌篇小説の連載が始まった。山口さんにはこれまで、本誌ではテレビ批評や評論などで健筆をふるっていただいていたが、小説は初めてだ。山口さんにとっても、ほぼ7年ぶりの小説発表であり、「3・11」以降、初めての小説にあたるという。第3週の月1掲載予定だ。

抗議活動

 都立高校の卒業式に保護者として出席した。正門の前で、ビラを貰った。はなむけの言葉とともに、「誰にも立たない、歌わない自由があります」とあった。起立斉唱を職員に強制する「10・23通達」から14年。刃向かう者は処分を受け、異論は封じ込められて今は何事もなかったかのようだが、抗議活動は続いている。

 豊洲市場移転問題で石原慎太郎元都知事の百条委員会への喚問が注目されているが、彼が教育の場で行なった数々の圧政と支離滅裂な行為はどうなるのか。「僕、国歌歌わないもん。国歌を歌うときにはね、僕は自分の文句で歌うんです。『わがひのもとは』って歌うの」という発言が知事退任後、文芸誌に載ったときは、さすがにのけぞった。

 教育勅語を暗唱させる幼稚園がいま、批判を受けている。もちろん違いはあるが、「君が代」だって本質的に同じじゃないかと思う。息子はこのビラを受け取っていない。理由を問うと、業者のビラかと思ったという。若い世代にこそ考えてほしいのに……。

お金の感覚

 確定申告の期限が15日に迫る。私自身は、経理に年末調整をしてもらっているのでその大変さはわからない。だから会社員は税金の重みがわからないと言われることも多い。たしかにそうだろう。

 だが、個人的には家計の大変さが年々増加。そこで「週刊金曜日友の会・大宮」による「老後の貧困リスクに備える」というイベントに参加した。ファイナンシャルプランナー・近江佳美さんの丁寧な説明に、参加して得した気分。

 その時にある方から、ちょっと驚く話をきいた。大手企業では、自分が給与をいくらもらっているかわからない人が少なくないというのだ。会社が給与支給明細書を配付せず、サーバー上におき、それに個々アクセスする仕組みに変わったからだという。

 忙しさにかまけて見ない人もいるだろう。紙代の節約にもなるし、経理が配付する手間も省ける。だが、これではお金に対する感覚がますます薄れてしまう。政府の政策の是非についての実感もわきにくくなる。ここでも……とため息。

労働3権

「労働3権が憲法に定められているような国はほかにない」と今週号で水谷研次さんが言及しているが、そのことをうらやましく感じたことがある。駐日某大使館で働いていたときのことだ。休日を減らされたり、労働時間が延ばされるなど労働条件がいきなり下げられても文句がいえない。今から思えば何らかの手立てがあったのかもしれないが、結局不満を抱えたままみんな辞めていった。

 雨宮処凛編集委員の『一億総貧困時代』(集英社インターナショナル)を最近読んだが、あのときの私と同じ治外法権下? としか思えないような実態が取り上げられていて驚いた。労働問題に対する引越社のこじらせ具合ははんぱじゃない。働きやすい職場をつくろうなんて意識は会社にみじんも感じられない。社員は結局、ユニオンの協力を得て裁判で闘うことになる。

 私の場合は同じ職種の4人全員で意見のすりあわせをして大使に談判することに。当日は1人脱落、でも幸運にも要求は聞き入れられた。

日米首脳会談

 ここのところ、日米首脳会談の話題で少し食傷気味。「リラックスした雰囲気の中で、地域情勢や世界の課題について、突っ込んだ意見交換を行うことができました」(首相官邸のフェイスブックより)。

 個人的な信頼関係を築くのは勝手だが、入国禁止の大統領令をめぐって、「内政問題」を口実に”だんまり”というのは、ちょっと情けない。安倍首相の国際社会をめぐる根本的な認識が問われているわけだから、せめてもうちょっとましな対応はできなかったのだろうか。国際社会を敵に回してどうする?

 米国のお隣のカナダでは、入国禁止令が出た翌日に、トルドー首相が難民歓迎のアピールをツイッターに投稿したことが話題になっていた。

 大統領令が法廷闘争になったことで、トランプ大統領は新大統領令を検討しているという。もしかして、「(人権無視で悪名高い)日本の入管政策をモデルに検討している」と大統領に賞賛されていたりして……。安倍さん、国内の問題で”だんまり”は許されませんよ。

オスプレイ

 漂着したオスプレイの飛行マニュアルをめぐる新藤健一さん執筆の2回にわたる記事を、これで無事にお届けできることになった。

 私自身、この記事でいろんなことに合点がいった。乗組員に課せられた水中での脱出訓練のビデオもユーチューブで見た。機内に水が入り込んでくるときの緊張感は見ていても伝わる。脱出訓練は十分な明るさが確保されているが、漆黒の闇のなかだったらどうだろう。

 これほど過酷な任務を乗組員に課すオスプレイが国内を飛び回ることに、あらためて恐怖を覚える。それだけではない。これらを総動員した演習が日本国内で展開されていても、それを私たちが知らないことに愕然とする。

 先日の大学入試センター試験の英語リスニング時、会場の一つ琉球大学付近をオスプレイを含む米軍ヘリが飛行したという。騒音レベルは地下鉄の車内レベル以上とか。

 今月16日19時から、東京・神保町の「ブックカフェ二十世紀」で新藤さんによる緊急報告会が開かれる。興味のある方は是非!

「見せしめ」という「裁量」

 親の経済力が乏しいと、子どもの進路は大きく影響を受ける。親のほうは子どもの教育費用次第で老後の蓄え(設計)が大きく変わる。教育費は、親子の自律した関係をゆがめる日本の社会制度上の大きな問題ではないのか(そう考えるのは、私がダブル受験生を抱える親だから?!)。

 小池百合子都知事は「教育の機会均等」の名目で、年収760万円未満の世帯の、私立高校授業料の実質無償化の方針を公表した。思想信条を超えて、百合子さんガンバレ、と言ってしまいそうになるが、冷静に考えると都知事のむごさが身にしみる。都知事は一方で朝鮮学校への補助金の支給停止を続けているからだ。結果として「差別」を強めているのだ。

 1月28日、大阪の朝鮮学校が補助金不支給の決定取り消しを求めて大阪府・市を訴えた裁判で、大阪地裁は朝鮮学校の請求を斥ける判決を下した。拉致問題の解決と朝鮮学校の子どもらの教育を受ける権利は、まったく関係がない。「見せしめ」という「裁量」を許していいのか。

時代は変わる

 「世界は動いている」「時代は変わる」ことを実感した。韓国の金淇春(キム・ギチュン)元大統領秘書室長が逮捕されたからだ。朴槿恵(パク・クネ)大統領の友人による国政介入問題に連なり出てきた、“政権に批判的な文化人リスト”の作成に絡んだ職権乱用の容疑だ。

 元室長は、朴正煕(パク・チョンヒ)政権下で維新憲法草案づくりに参画し、その後法務部長官まで務めた人物である。その彼を、娘の朴槿恵大統領は「新維新体制」づくりに重用した。

 金元重(キム・ウォンジュン)千葉商科大学教授は本誌(2015年12月25日号)で彼を「拷問、不法連行、長期拘禁による虚偽自白で多くのスパイでっち上げを指揮してきた」と批判し、そういう人物が大統領に次ぐ位置にあったことを指弾した。元室長は、金教授を含む在日の留学生がスパイ容疑で韓国で一斉に逮捕された1975年の「11・22事件」(再審で無罪判決)の責任者でもあったのだ。

 翻って日本はどうだ。「敗戦」を受け止められず、高度経済成長の成功体験にしがみつく安倍首相が「国創り」を宣言する。時間が止まっていはしまいか。

トランプ大統領と情報合戦

 頭の中が混乱してきた。トランプ大統領の就任式が近づいてくるにしたがって、情報合戦が激しくなり、何がウソで何が本当なのかわからなくなったからだ。国内メディアの情報をみてもだめ、海外メディアの情報をみると……よけいわからなくなる。

 今週号のトランプ関係の記事を読んで、ようやく腑に落ちた。読者の皆さんはいかがでしょう。

 俳優のメリル・ストリープが的確なトランプ大統領批判をしているのをみると、快哉を叫びたくなる。障がいのある記者のまねをして嘲るなんて、本当に信じがたい。

 だが、日本のトップがどうかというと、別の問題がおおありだ。遂にアベノミクスの理論的支柱である浜田宏一氏が白旗をあげたというニュースが国内を走ったのが昨年11月のこと。内閣支持率が大きく落ちるぞ、と密かに喜んだが、多少沈んで浮かんで、1月のNHKの調査では「支持する」が55%(フー!)。

 小者でも(!)しぶとい。粘り強くいくしかないですね。