編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

コーヒーの味

 日々新たな感染者の数字が速報される新型コロナウイルスによる肺炎(COVID―19)。ようやく政府は専門家会議を開催し、テレビニュースでも取り上げられたが、安倍晋三首相が在席したのは3分ほど。

 自ら引き上げたのか、役に立たないから退席いただいたのかわからないが、それ自体がツイッターなどで話題になってしまうという始末。最新の調査では内閣不支持率が支持率を上回ったと言うが、この政権のガバナンス能力のなさは底なしに思えてくる。

 一方、厚生労働省から相談や受診の目安が発表された。風邪の症状や37・5度以上の発熱が4日以上続く場合など、相談が奨められるという。家人が長期出張にいく前に、体温計を探していた。子どもが小さいときに耳で計れるものとか試したが、残っているのはシンプルな体温計だけ。結局、行きがけに購入して貰った。

 私自身は、体温計を使わなくても、毎朝飲むコーヒーの味で熱があるかどうかわかる(と思っている)。今日はOK。さ、校了作業だ。急がねば。

コロナウイルス

 新型コロナウイルスによる感染拡大がつづく。感染をおそれるあまりの過剰反応による差別的な対応なども問題になっている。メディアの報道姿勢は重要だ。

 長野県・佐久総合病院の色平哲郎医師からこんなメールが届いた。「病院へ行かないという選択を!」

 例えば新型コロナウイルスの検査キットは一般の医療機関にはない。インフルエンザにしても確実な検査とはいえない。それなのに、検査を求めて受診するのは、学校や会社を「公的に」休むために必要だから。

「一番問題なのは、治療の要らない軽症者が受診することで、重篤な疾患を抱えている患者さんがたくさんいる医療機関でウイルスをばらまいてしまうこと」という。

 確かに私もインフルの可能性のある症状が出たら、社内の人に感染する危険性があるからと医療機関に駆け込んでしまう。様子をみてひどくならなければ、症状がおさまるまで休んでいればいいということだ。

「診断のために医療機関を受診するのはやめましょう」。社会の流れとしてはそうあるべきだろう。

信じがたい

 あれ、鼻がムズムズする。スギ花粉がそろそろ飛び散る季節だ。インフルエンザもいまだ油断がならない。編集部はA型にやられたばかり。さらに新型コロナウイルスによる新型肺炎の脅威にもさらされている。困ったことだ。

 ウイルス対策には手洗い、免疫力を高めるための十分な睡眠とバランスのとれた食事。でも、これが実は一番難しい。母方の大叔父がスペイン風邪で若くして亡くなっている。東京に出てきて学業を終えて社会人として勤めだしたところだった。一人暮らしで栄養状態が悪かったのか。

 今週号の天笠啓祐氏の記事によると、新型コロナウイルスは変化しやすい。変化前に封じ込めることができるか。日本政府の危機管理能力のなさは、昨年の自然災害で見せつけられたばかりだ。今回も後手に回っている。

 と思えば、伊吹文明元衆院議長から「緊急事態に個人の権限をどう制限するか。憲法改正の大きな実験台と考えた方がいいかもしれない」という発言も飛び出したという。政治家の発言とは信じがたい。

中村医師から学ぶ

「ペシャワール会」の現地代表・中村哲医師のお別れ会が1月25日、福岡の西南学院大学で開かれた。同日、さいたま市浦和区でも、アフガニスタンでの中村医師の活動記録映画を上映するなどして追悼の集いを開催する旨、事前に連絡を戴いた。全国で同じような会が催されているのかもしれない。私たちは、いかに大きな人を失ってしまったのか。

 昨年の12月20日号でお約束した記事を今週号で掲載した。ペシャワール会の活動は今後も伝えていければと思う。

 アフガニスタンの旱魃もそうだが、気候変動の問題は重大だ。ウズベキスタンのアラル海は干上がってしまったが、JICAの永田謙二さんによるとイランのウルミエ湖も2000年頃から縮小を始めた。アフガンのヘルマンド川の流量も調べたが、この一帯が同時期から旱魃傾向が続いていることは間違いないという。ただ、温暖化の影響かどうかはわからないそうだ。

 自然に対する謙虚なまなざしと文明のおごりを戒める思想──それこそ中村医師の活動から学びたい。

最後のセンター試験

 最後のセンター試験がこの週末に行なわれた。小さなミスはあったようだが、ほぼ滞りなく終了したようだ。

 批評家の若松英輔さんが国語に出題された原民喜の「翳」をめぐり、ツイッターで発信されていた。私は恥ずかしながら読んだことがない。わが家にも受験生がいるので「翳」について聞こうとしたところ、堰を切ったように泣き出した。試験の緊張が解けたせいもあるのだろうが、悲しい話に弱い娘はただただ号泣するだけ。そして一言「××がかわいそう」。新聞に載っていた試験問題を家人が探して読む。「で、どこに○をしたの?」。受験生曰く、「間違っていたら××が憎らしくなるから知りたくない」。

 若松さんはこういう。「もし解答が誤っていることに悩んでいるなら、こう言いたい。『君は、原さんの言葉を超えて、原さんの心にふれたから間違えたんだ。文字上では誤りでも、君は、意味の世界では『正解』以上のことを経験したんだ』」。この言葉をそっくり、我が家の受験生にも送りたい。

直視する必要

 昨年末、閣議決定した海上自衛隊の中東派遣は、野党の反対を押し切り強行された。また、安倍晋三首相の中東訪問は、米・イラン関係が最悪の事態を免れたことで実施。今日の朝刊ではサウジアラビア皇太子との会談の模様が伝えられた。

緊張緩和のために安倍首相が皇太子に外交努力の必要性を訴えたという記事を読むと、鼻白む思いがする。

 安倍首相は武器輸出三原則を緩和した張本人。昨年開催された武器見本市の記事を今週号で載せているので特にひっかかる。一方、皇太子は無罪となったが、自国の反体制ジャーナリスト、カショギ氏の殺害事件で側近の関与が疑われていた。会談の裏で一体どんな話がなされたのか。

 ウクライナ旅客機墜落の原因がイランによるものであるとわかった。あまりにも大きな犠牲だ。2014年、ロシアがウクライナ上空でマレーシア航空を撃墜した事件の現場写真を「世界報道写真展」で見たことを思い出す。目をそむけたくなる写真だったが、だからこそ直視する必要があったと今は思う。

自由を愛した北村さん

 年末年始に重大ニュースが飛び込んでくるのは例年のこと。だが、今年は余りに多い。

 さらに私たちには別れもあった。前発行人の北村肇さんが暮れに逝去したことだ。会社を離れたのは一昨年の9月。その後もこんなメールを送ってくれた。「今日たまたま鶴瀬で小さな本屋を見つけました。入り口前の雑誌スタンドに『金曜日』がどんと置いてありました。思わず写真を撮りましたので添付します」

 私は誇らしくその写真を眺めた。その細やかな気遣いが嬉しかった。作り手が何を糧に日々、悪戦苦闘しているのか、痛いほどわかっているからだろう。どんな違いがあろうとも、北村さんはいつも私たちとともにあろうとした。

 昨年7月に書評原稿の執筆を依頼した。いったんは引き受けてくれたが、容体の悪化を理由に返上された。同月末からは、その連絡も代筆になった。

 自由を愛した北村さん、この世の中、息が詰まることばかりだったのではないですか。どうかゆっくりお休みください。

追ってご報告をしたい

 先週号で中村哲さんの追悼記事を掲載した。お忙しい中をゆかりの方から追悼文をいただくことができたこと、現地代表が亡くなりたいへんな時期にもかかわらず、ペシャワール会事務局が写真の手配など丁寧な対応をしてくれたことがありがたかった。

 ひとつ記事の一部に対して疑義が出された。「親切で誠実なタリバンの男たちに親近感」の文章の冒頭だ。

〈中村先生が用水路をつくったことで水が来なくなったという不満が国内や周辺国にもおよび、それは先生も感じていたはずです〉

用水路をつくったことでいずれかの地域に水が来なくなったという事実がそもそもあるのかどうか、どういう根拠でこういう発言をされているのか、という疑義だ。

 これは西垣敬子さんの追悼文だが、西垣さんは、本誌2002年6月7日号の「『金曜日』で逢いましょう」で登場いただいた方だ。〈一九九四年から毎年二、三回ずつ現地(ジャララバード)を訪れ(略)テントを贈ったり、放置井戸にポンプを付けたり(略)ミシン(略)糸を贈って女性たちに洋裁や刺繍を教えると目を輝かせた〉とある。中村さんとも接点があるという話を聞いて追悼文をお願いした。16年5月以降は現地に入ることができていないが、20回以上は現地を訪れている。冒頭の情報は、現地の大学教授らから得たものという。

 中村さんは、干魃に襲われたアフガニスタンに最初は井戸を掘った。だが、井戸は飲料水の確保にしかならないということで灌漑事業を手がけるようになった。この灌漑事業のおかげで農村が復興し、多くの人が食べることができるようになった。その一方で、冒頭のような事実があるのかどうか、アフガンやその周辺国の水資源に詳しい研究者に話を聞こうと考えたが、出張中で連絡がとれなかった。

 掲載前に確認をすべきであった。申し訳ない。年を越してしまうが、大事な問題なので、追ってご報告をしたい。

 年越し問題は他にもいろいろある。継続して伝えていきたい。

「慰安婦」問題

 今年もあと1号を残すばかりとなった。全体で68頁の雑誌だが、何ができたのか、できなかったのか。「桜を見る会」は、野党の追及に安倍晋三首相がほとんど応じないまま年を越すことになる。メディアとしてもっと追い詰められないのか、と厳しいお叱りの電話を戴いた。たしかに大事な局面だと考えている。

 今月6日、旧日本軍の「慰安婦」問題を巡り、内閣官房が2017、18年度に集めた資料を伝える共同通信配信の記事があった。その中で「『軍の関与』を補強する資料と位置付けられそう」だとする資料は、ジャーナリストの今田真人さんが本誌17年11月24日号で発表されたものだった。

「軍用車に便乗南下……したる特殊婦女」「兵員70名に対し1名位の酌婦を要する意向」などと、1938年当時の外務省と在中国日本領事館の具体的なやりとりを詳細に紹介し、軍や官憲の「主体的」な「権力犯罪」と評している。

 三一書房から『極秘公文書と慰安婦強制連行』も出ている。関心を持たれた方はご一読いただきたい。

医療費増額

 仕事が終わり家に帰ると里芋がどっさり実家から届いていた。9月から3箱目になる。実家で作っているわけではなく、いい芋が近くの八百屋さんで手に入るということだった。里芋の汁でかぶれる私は皮を剥くのが難儀だ。

 さて、どう料理しよう。いっそ潔くふかして食べてみるか。しかし、こんなに重い荷物をどうやって配送手続きしたのか。めまいで転倒して膝を痛めたのは一昨年の冬のことだった。

 先日政府が75歳以上の医療費自己負担を2022年度から2割に増やす方向で調整をしていると報道があった。高齢者が必要以上に受診を控えるのではないかと心配だ。私の母の場合、医療ではないが月に二度、訪問看護を利用している。

 だが、本人は理屈をつけて止めたがっている。「勿体ない」がホンネだろう。しかしこのタイミングで医療費増額とは。10月に消費税をあげたばかりじゃないか。

 よし、久々に「安倍さんは弱い者イジメ。腹が立って眠れんさ」という母の口癖を聞きに実家に帰ろうか。「桜」の疑惑もあるし。