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権力をもった今こそ、「連合」の心ある組合員は立ち上がるべきだ

「私はいつも被害者とともにいたい。加害者のそばにいるのは嫌だ」。この科白こそ、アンジェイ・ワイダ監督の痛切な思いであり、世界の人々に投げかけたかったメッセージなのだろう。最新作『カティンの森』に登場するレジスタンス運動に身を投じた女性の言葉だ。体制側にいる姉の説得に対し決然と言い放つ。

 第2次大戦中の1940年、約1万5000人のポーランド人将校がソ連によって虐殺された。いわゆる「カティンの森事件」だ。ナチスドイツの占領を解かれたポーランドはソ連の衛星国となる。形式的な独立のもと「事件はナチスの犯行」というデマを流す共和国政府。その堕落ぶりに耐えられない妹は、戦い、捕らえられ、歴史の闇に葬られる。

 長い間、労働組合運動に関わってきた私は「被害者の側に身を置かなければだめだ」と自分に言い聞かせてきた。企業内だけではなく社会の被害者に寄り添った運動こそが労組に求められるとも考え、行動してきた。組織率が年々、減少している理由の一つは、このような意識が希薄になっていることにある。自分の待遇さえ良くなればいい、そのためには自社の利益が上がればいい――利己的(利社的)な発想には、被害者に寄り添う姿勢が見られない。

 上述のような傾向は大企業組合ほど顕著だ。そして、経団連加盟企業の労組は多くが「連合」に加盟している。大半が、カネ、人の面では余裕がある。本来なら、もっと社会改革に向け積極的に行動すべきだ。しかし、これらの大企業労組が社会福祉的活動に力を注いだケースはほとんど耳にしない。反面、本誌今週号で特集したが、大企業、連合の二人三脚としか思えないような事例もある。

 先の総選挙で民主党が圧勝した。同党には連合の支援を受けた議員が数多くいる。官房長官の平野博文氏は松下労組出身だ。民主党政権は、日本の政治史上初めて、労組が中枢に入り込んだ政権でもある。これまでの「自民党+財界VS民主党+連合」というわかりやすい構図は崩れた。民主党、財界、連合の関係がどうなるかで、政治の行方は大きく変わるだろう。

 果たして「連合」は、加害者側の立場を拒否した妹になれるのか。甘い期待はもっていない。だが、いたずらに悲観的にもなっていない。労働組合の良心をもった組合員はたくさんいる。権力をもったいまこそ、その権力を被害者のために使うべきだ。心ある組合員が立ち上がれば、市民は歓呼の声をもって応えるだろう。(北村肇)