週刊金曜日 編集後記

1363号

▼岸田文雄首相が「廃棄する」と明言したアベノマスク7900万枚に対して、「2億8000万枚の希望があった」と安倍晋三元首相が自身の派閥の会合で明らかにした。しかし、これが"明らか"である根拠はない。ネタ元がバレなきゃなんでもやる安倍晋三だからである。国会では118回もの虚偽答弁を繰り返し、その政権下では公文書の改竄や隠蔽、統計データの水増しなどが横行してきた。マスク応募の水増しなどはお手の物であろう。自身と距離を置く岸田首相への当てつけであろうか。
 そしてマスクの水増し疑惑以上にタチが悪いのが、昨年末に『朝日新聞』が報じた国交省の不正統計問題だ。2013年から8年の間に都道府県の担当者に建設業の受注に関する統計データを改竄するよう指示し、実際の数字よりも大きく操作していた。これによりGDPが押し上げられた可能性が高い。アベノミクスの水増しである。あらためて安倍政権時の腐敗ぶりが露呈している。(尹史承)


▼選挙がテーマの映画を立て続けに観ました。劇映画『決戦は日曜日』(坂下雄一郎監督、105分)とドキュメンタリー『香川1区』(大島新監督、156分)です。
 前者は、話題になったエピソードがふんだんに盛り込まれた社会派コメディで、宮沢りえの演技が光ります。後者は、2021年秋の衆議院選挙で注目を集めた香川1区の選挙戦を、与野党両陣営と双方の有権者の視点から深掘りしています。いやぁ、面白かった。
 政治に直結する選挙は大切でとても刺激的なものなのです。
 さて、立憲民主党の菅直人・元首相が橋下徹氏について〈弁舌の巧みさでは第一次大戦後の混乱するドイツで政権を取った当時のヒットラーを思い起こす〉と指摘した件について、維新がいま猛抗議しているのは、選挙を見据えた戦術に見えます。どちらの主張が真っ当かは本誌読者には自明でしょう。維新の主張を中心に伝えるワイドショーにはうんざりします。
 夏には参院選があります。とても大切な選挙です。(伊田浩之)


▼東京電力福島第一原発事故の翌年、『朝日新聞』夕張支局から希望して福島総局、南相馬支局長として赴任以来、データ取材を重ねて甲状腺がん多発を確信、低線量被曝によるがん多発については多くの原稿を書いてきた(拙著『原発に抗う』参照)。が、「チェルノブイリ事故と比べて放射性物質放出量は遥かに少ない」「甲状腺がんは多発していない」などと主張する本社科学医療部の「専門記者」の記事に押され、私の警鐘記事が全国版に載ることは少なかった。
 そんなとき、南相馬支局に泊まり込みで通ってきては、原発被災者取材のノウハウや先行知識を教えてくれたのが白石草・アワープラネットTV代表だ。彼女を大きく変えたのもチェルノブイリ取材だった。当時、子育てで苦労した女性ジャーナリストによる現地取材はほとんどなく、帰国後は子どもの健康影響に焦点をあてて患者と家族に深く寄り添ってきた。今週号の提訴記事を白石姉にお願いしたのは必然だった。(本田雅和)

▼今週号の「祀りをたずねて」は、山形県から宮城県にかけての地域で公開されている雛祭りを掲載した。当初、この記事を読み興味を持った方は、現地へ足を運び長い歴史を経て保存されている実物を直に見てほしかったのだが、新型コロナウイルスによる感染拡大により、展示を中止もしくは縮小せざるをえないところもあるのではないかと推測される。現地へ見学にいく際は、電話やインターネット等で「公開するかどうか」の確認をお願いします。
 今、各地でコロナ禍の終息の「祈り」がさまざまな形で行なわれていると聞く。この国で暮らす人々は、山、川、海、森、田畑から台所のカマド、座敷、便所などの「見えない存在」に対し、さまざまな形で感謝や祈りを表してきた。
 新型コロナウイルス、異常気象、火山噴火、地震......。時代がテレワークなどでデジタル化されても、人々の「見えない存在」に対する祈りの想いは、普遍的に変わらないのではなかろうか。(本田政昭)