週刊金曜日 編集後記

1357号

▼物心ついた頃からの「鉄ちゃん」である私ですが、仕事で鉄道モノにかかわったのは今号の「リニア特集」がたぶん初めて。あるいは敬愛する故・宮脇俊三さん(紀行作家)の影響かもしれません。
 中央公論社の編集者だった宮脇さんは激務の合間を縫って全国の国鉄路線を踏破し、全線完乗後にデビュー作『時刻表2万キロ』を他社から上梓すると同時に退職。以後は作家一筋に転じます。当時10代だった私は、その独特の汽車旅世界を楽しみながら「この人、仕事は何やってんのかな?」などと思ったもの。それが約10年後、自らも出版業界に飛び込んだ私はそこで初めて、彼が編集者時代にあの「日本の歴史」「世界の歴史」などの名シリーズを手がけ、役員として熾烈な労使紛争に対峙するなど、名門・中央公論社の栄光と苦難の歴史を識る、業界の伝説的人物だと知ったのでした。ご本人は著作の中で、そうしたことにはほぼ触れないままでしたが......。
 宮脇さんの作家デビューは51歳の時のこと。30~40代の頃の私は「50を過ぎたら宮脇俊三」が実はひそかな夢でしたが、60の大台が迫った今も、彼の背中は依然遠くにあるようです。(岩本太郎)

▼今冬初の灯油を買いに行って、その値段の高さにびっくりしました。18リットルで税込み1944円。巡回販売だと2000円超えです。こんなに高いの、ちょっとこれまで経験ないです。
 スーパーに行っても、これまでは生鮮品やら調味料やら加工食品やらお菓子やら酒やら、いろいろ取り混ぜてカゴいっぱい買うとだいたい5000円くらいでおさまっていたのが、最近は同じくらいの量の買い物なのに、レジで6000円とか、一度は7000円とか言われ、「うっそ~?」と思いレシートを点検するものの、間違っていない――ということを繰り返しております。
 何がどう上がったとか、何かが突出して上がったというわけではなく、全体がちょっとずつ上がった感じがします。だからトータルで考えると、結構な額の値上げなのではないでしょうか。しかも年明けからは、おしょうゆやパン、小麦粉製品なども上がり、さらには灯油やガソリン、電気代なども上がるとのことで、家計を直撃する値上げラッシュ、年明けからが本番ですよ! という話を、今号の「くらしの泉」でお届けしております。本当に大変です。(渡辺妙子)

▼原一男監督の最新ドキュメンタリー映画『水俣曼荼羅』(11月27日から全国順次公開)を観ました。水俣病を主題として撮影に15年、編集に5年を費やしたそうです。372分の大作ですが、各20分の休憩をはさむため、3本立てを観るようなもの。なにより、各部の登場人物が交差しながら世界を構築するさまは、まさに曼荼羅。この長さは必然だったとわかります。
 1956年の公式確認から65年たっても水俣病問題がなぜ未解決なのか。その理由は、裁判で勝った患者(被害者)側との交渉で見せる国や熊本県(加害者)の態度をみるとよくわかります。そして、〈ドキュメンタリーを作ることの本義とは、「人間の感情を描くものである」と信じている〉と映画公式サイトに記す原監督の作品だけに、喜怒哀楽や愛と憎しみが満ちあふれています。水俣病の現在を知るためにぜひ観ていただきたい映画です。
 2004年10月15日、最高裁で勝訴した関西訴訟の原告団らが小池百合子環境相(当時)と交渉するのが重要な場面の一つです。この場に私もいました。この時の鎌田慧さんの詳細なルポは、弊社刊『痛憤の現場を歩く』に収録されています。(伊田浩之)

▼自宅の近くに弾薬庫が建設された。そして大型ミサイルが搬入された。保安距離は確保されているというが、保安距離を決める基準となる弾薬量は明らかにされていない。さらに、火災事故などを想定した対策は講じられていないし、攻撃を受けた際に住民をどう保護するかの計画も立てられていない。
 こうしたことが沖縄の宮古島では起きている。11月14日、自衛隊の大型ミサイルが搬入されたが、弾薬庫がある訓練場には、昔からの集落が隣接している。ある住民は、「後からやってきたのは、自衛隊。生活を破壊するな」と憤る。
 米国の対中国戦略に基づく南西諸島への自衛隊配備は、地方自治も踏みにじり続けている。そのひとつの例が、保安距離などを規定している火薬類取締法だ。鉱山開発などを想定した法で、火薬庫を設置するには、通常は「都道府県知事の許可」が必要なのだが、自衛隊だけは経産大臣の承認で設置ができる。防衛省にきくと、この"読み替え"は、自衛隊の前身である保安隊のころから始まっていたという。保安隊といえば、朝鮮戦争時につくられた警察予備隊が前身で、今でも、当時決められた読み替えが当然のようにされている現実に恐怖する。(渡部睦美)