週刊金曜日 編集後記

1354号

▼本誌「多摩猫キセキの物語」で紹介したミータン(♀)が10月30日に永眠しました。28歳5カ月、多摩川河川敷伝説の神猫でした。
 多摩猫を連載し、ミータンを保護した写真家の小西修さんから、「わが家に来たときから明日死んでも不思議でない年齢でしたから、拍手喝采で見送るしかないですね。ある意味すがすがしい気分でもあり、妙におめでたいような気もするのが正直なところです」との連絡がありました。「若くして命を落とす猫や人もいますが、いつも思うのは、日常が健康で楽しく過ごせる環境であれば、猫や人も幸せだったと言えると思います」とも。
 翌衆議院議員総選挙の日に、わが家の猫ココ(♀)も旅立ちました。14歳4カ月でした。「また亡くなったの?」と連絡をくれたのは、30年にわたりウィーン交響楽団の首席チェリストを務めたウィーン在住の吉井健太郎さん。3年前、公演で来日したときも愛猫を失ったばかりで、共に鎌倉を散策し、ずいぶん慰められました。
 10月31日は、奇しくも2年前に亡くなった敬愛する俳優の命日。あまり猫好きではなかったから、向こうできっと驚いているに違いありません。(秋山晴康)

▼映画『ジョーカー』を見て、「ジョーカーは自分だ」と思った人は多いのではないか。社会のどこにも行き場がない、閉塞感の中で生きる主人公が、若者たちのカリスマになるまでのストーリー(これが妄想かどうかは諸説あり)。主人公が感じる閉塞感がわからない、という人は幸せ者だ。この映画を前に「努力すれば報われる」なんて言葉、陳腐でしかない。
 京王線事件の犯人がジョーカーに憧れていたことが報道されるとさまざまな論評があふれたが、私にはひろゆき氏言うところの「無敵の人(何も失うものがない人)による事件」が腑に落ちた。京王線だけではない。秋葉原無差別殺傷事件や小田急線事件など、これまでいろいろな事件があったが、「無敵の人」が社会の目にさらされるのは、凶悪犯罪の犯人もしくは容疑者としてだ。
 もちろん、これらの事件の犯人をかばうことはできない。しかし反面、「無敵の人」が特別な人間だとは思えず、特別な人間による特別な事件だと思っていたら見誤るのではないのだろうか。言いかえれば、誰だって"無敵"になる可能性はある。そんな不確実性の中で私たちは生きているということだ。(渡辺妙子)

▼立憲民主党は今後も共産党と協力していかなければ、選挙に勝って政権交代を実現することはできない。それが明らかなことは、今号13ページからの特集でも、これまでの特集などでも扱ってきた。しかしその一方で、主要ないくつかの世論調査をみれば、協力関係を支持しないとの回答が圧倒的だ。ただ、これをもって、協力関係をやめたほうがいい、という安易な結論には結びつけてほしくない。こうした回答の背景には、野党共闘は失敗だったというさまざまなメディアのネガティブキャンペーンが影響していると思うからだ。参院選にむけて、どう野党共闘を深化させていくかが重要な時に、そのスタートラインにすら立つことを拒ませるような報道が目立つ。
 同様に、マイナンバーカードへのポイント付与をめぐって、再びマイナンバーカードに関する報道も増えているが、「マイナンバーを提出することが義務ですから」と、堂々と言ってのけるテレビ番組などが目立つことも気がかりだ。マイナンバーの提出は義務ではないし、提出しなくても不利益や罰則はないということを関係省庁が認めているということは、あらためて確認しておきたい。
(渡部睦美)

▼「私は議員を辞めません......」
 不祥事発覚後、体調不良で雲隠れしていた木下富美子都議(55歳)が4カ月ぶりに登庁し、議員活動の継続を表明した。その厚顔無恥ぶりには呆れ果てるが、このような居直りは安倍晋三元首相が最も得意とするところでもある。
 11月11日、自民党の最大派閥である細田派は党本部で開かれた総会で、安倍氏の派閥復帰と会長就任を全会一致で了承した。細田派は「安倍派」と看板を替えた。
 国会で虚偽答弁を100回以上繰り返し、モリカケや「桜を見る会」問題、河井夫妻への1億5000万円選挙買収疑惑などについての説明責任を一切果たさず、体調不良を理由に政権を投げ出した人物が政権与党最大の派閥の領袖となり、再度権力を誇示する。
 安倍氏は就任のあいさつで、憲法改正について、「立党以来の党是」「議論の先頭に立とう」「党内最大の政策集団として責任を果たしていく」と決意を述べた。衆院選期間中は「改憲」を伏せて戦い、選挙後、多くの議席を獲得すると真っ先に「改憲」を掲げる。
 これは安倍氏の常套手段であったが、「安倍政治」が戻ってきたことを痛感する。(尹史承)