週刊金曜日 編集後記

1352号

▼ガソリンや灯油の価格高騰が止まらない。国内では約7年ぶりの高水準で、家計を直撃している。だが、寒さが本格化している北海道に衆院選の応援で入った岸田文雄首相は、「国民の声を書きとどめてきた」という例のノートを振りかざしたものの、この価格高騰に触れなかったという。人々の生活実態がわかっていないのだろう。
 10月31日投開票の衆院選ではメディアの情勢分析が割れた。『産経』が〈自民単独過半数へ攻防 立民に勢い〉(デジタル版10月25日)と見出しを取ったのに対し、『朝日』は〈自民、過半数確保の勢い 公示前は下回る可能性 立憲ほぼ横ばい〉(同26日)とした。
 大接戦となっている選挙区が多いため分析に頭を悩ませているのだ。前回の衆院選では、〈自公、300議席うかがう勢い〉(朝日新聞デジタル2017年10月13日)だったことから考えても、野党共闘の成果が上がっていることがわかる。来年夏には参院選がある。今回の衆院選後の流れ次第では解散総選挙もありうる。共闘の行方を注視したい。(伊田浩之)

▼選択的夫婦別姓は戸籍制度の枠内の制度で、天皇制と結びつく戸籍自体の問題を問うていないという論がある。それはその通りで、戦後、家制度が解体されたときに「戸籍」から「個籍」に移行するはずが残ってしまったことについても何度か報じた。私自身、個人の結びつきを国に届ける婚姻制度に疑問を感じているので法律婚ではなく事実婚を選択している。
 ただ、今この瞬間も現行制度により不利益を被っている人がいるのは事実であり、当事者にとっては一刻を争う問題だ。戸籍制度という大きな課題が解決するまで結婚や出産を待てとは言えない。どうすれば一番早く不利益が解消できるかということから、現行制度内の問題解決手段の一つとして選択的夫婦別姓制度導入が求められている。この程度の選択肢すら認めない硬直した政治を変えずに、次の課題はクリアできない。
 到達すべき山の頂上を忘れることはない。ただ、羽を持たない私たちはそこまで飛ぶことはできないので、課題を片付けながら一歩ずつ進むしかない。(宮本有紀)

▼「選択的夫婦別姓をマジックソリューションのように喧伝するのは間違いだ」
 先週号の本欄で同僚の本田雅和がこんなことを書いていた。私は、衆院選公示直後の10月22日号の特集として「選択的夫婦別姓」の問題を選挙の焦点として取り上げるべきだ、と編集部内で主張し、この問題に長年取り組み、詳しい同僚の宮本有紀が担当した。
 私と宮本の取り組みに対して、本田が「戸籍制度の問題を抜きにしてやるのは意味がない」と言った趣旨の疑問を呈したのは確かである。なるほど、とも思ったが、「10月22日号で戸籍制度の問題まで一緒に取り上げるのは難しいだろう。次の段階だ」というのが私の結論であり、彼にも伝えた。
 私の目の前には、事実婚を選び不便を感じている男女がいる。わだかまりを感じながらも姓を変えざるを得なかった女性がいる。私が「最高裁を裁く」の記事で書いたようにまさに「個人の尊厳と両性の本質的平等」が問われているのだ。戸籍制度の問題は続編として取り組みたい。(佐藤和雄)

▼アフガニスタンで医師の中村哲さんが亡くなられて12月4日で2年になります。
 突然の訃報を受けての追悼特集で、「100の診療所を作るよりも、1つの農水路のほうがたくさんの人の命を救える」と話された言葉が心に残っている、と寄稿してくれたのは医師で作家の鎌田實さんでした。家族ぐるみの親交があった喜多悦子さんは、予定していた学会参加を取りやめ、追悼原稿の執筆を優先してくれました。
 2020年1月25日、福岡市の西南学院大学チャペルで開かれたお別れの会に参列した訪問診療を行なう後輩医師は、「力が抜けて立ち直れない」と悲しみを吐露していました。
 20年6月には火星と木星の軌道の間に存在する小惑星が「Nakamuratetsu」と命名されました。推定直径約6キロで肉眼では見えないそうですが、人知れず輝き続ける小惑星というのも中村さんの志を象徴しているのではと思います。
 本誌「言葉の広場」の11月のテーマは「中村哲さんのこと」で、締め切りは11月18日です。ご投稿をお待ちしています。(秋山晴康)