週刊金曜日 編集後記

1350号

▼全国最大の精神科病院、東京都立松沢病院に設置されたコロナ患者の専用病棟で起きていることを取り上げた「ドキュメント 精神科病院×新型コロナ」(NHK、7月放送)は衝撃だった。都内の精神科病院でクラスターが起き、運ばれてきた患者は床ずれが放置されていたり、排泄物がそのままだったり......。一般病棟に比べて医者は3分の1、看護師は3分の2の人数でよいと定められているので、コロナに感染しても手厚い看護は受けられない現実がある。
 10月15日号の「コロナ禍で考える精神科医療1」では、神奈川県立精神医療センターに話を聞くことができた。センターで受け入れたコロナに感染した精神科の患者の約7割は、一般病院でも対応可能な状態だったという。つまり医療関係者にも差別や偏見があって、精神科の患者は受け入れたくないということだろう。先の番組で日本精神科病院協会会長は、精神科病院は「社会の秩序を担保している」と言った(!)。精神障害者の生きる場所を模索すべく、2回目を準備中です。(吉田亮子)

▼所信表明演説で「被爆地・広島出身の総理大臣として」と前置きしながら、核兵器禁止条約に一切触れなかった岸田文雄新首相。出身地・広島では、「黒い雨」訴訟の原告勝訴を受けて、原告以外の被爆者が、10月11日、市に被爆者健康手帳交付の集団申請をした。ただ、被爆者認定基準改定のための、厚生労働省と広島県・市の協議はなかなかすすんでいないという(「朝日新聞デジタル」10月11日)。
 6年前に他界した私の母の場合は長崎での被爆だが、手帳を交付されたのは、被爆後35年以上も経過してから。それも、故肥田舜太郎医師が、症状を丹念に診断してくれたから、とは本人の弁。
 今回の認定基準改定に、「被爆地・広島出身の総理大臣」がリーダーシップを発揮するとの話は、いまのところ全く聞こえてこない。広島・長崎について、さも被爆の問題に関心・理解があるかのように語る人に会うとき、関心があるのではなく、利用しようとしているだけと思わされる苦い経験も多い。首相の「被爆地・広島出身」発言はその典型か。(山村清二)

▼きっかけは韓国ドラマ「愛の不時着」だった。韓流にはまる友人から、ネットフリックス(Netflix)で配信されていると聞いて、早速有料会員になった。「愛の不時着」は、韓国財閥出身の女性社長と朝鮮人民軍将校の恋愛を描いたラブコメディだが、南北対立の痛みを感じるシーンも随所で見られる。そんなネットフリックスが最近配信した韓国ドラマ「D.P.―脱走兵追跡官―」には胸を締め付けられた。D.P.とはDeserter Pursuit(軍隊離脱者追跡)の略称。さまざまな理由で軍隊から脱走した者たちを探して逮捕する特殊部隊のことだ。ドラマは軍内部のいろいろな問題点をえぐり出す。韓国の男性は兵役法に基づき、兵役の義務を遂行しなければならない。20代の若い男性が、2年近く自由もプライバシーもない軍隊に押し込められる。徴兵制の背景に南北分断があることは言うまでもない。ドラマを見たのは、この夏兵役を終えた韓国人大学生から勧められたからだ。彼も軍入隊当初、環境になじめず3カ月で体重が8kgも減少したそうだ。(文聖姫)

▼〈菊酒や先に逝くなと言はれても 天谷翔子〉
 旧暦9月9日(今年は新暦10月14日)は重陽の節句でした。五節句のなかでも忘れられた存在となっていますが、菊の節句とも呼ばれ、邪気を払うとされる菊の花をめでたり、菊の花を浸けた酒を飲んで不老長寿を願ったりしていました。
 新暦の9月9日では菊はまだ出回っていませんが、この時期だと東京の八百屋さんやスーパーでも食用菊が出回っています。上巳(桃の節句)や七夕も、旧暦のほうが季節感と合っていますよね。
 山形県産の食用菊を店頭で見かけたので早速購入し、おひたしにしました。菊の花の芯を残して花びらをばらばらにするのは楽しい作業です。ネット上のレシピでは「酢を入れたお湯で30秒程度ゆでる」のが多いのですが、私は、ざるに広げた花びらの上から酢を入れた熱湯をかけます。このほうが、しゃきしゃきとした食感が楽しめます。あとは、氷水にいれて熱を取り、水気を切ると出来上がりです。季節感を大切に暮らしていこうと思っています。
(伊田浩之)