週刊金曜日 編集後記

1316号

▼1月8日、ソウル中央地方裁判所が下した判決は、日本政府に対し日本軍「慰安婦」被害者への賠償を命じるものだった。原告12人に1人当たり1億ウォン(約950万円)を支払えというものだ。12人の被害者のうちすでに7人は亡くなっている。実名を公表している4人の年齢も90歳台半ばだ。時間はあまり残っていない。1月22日号の本誌で、ソウル在住の研究者、吉方べき氏は「(原告が)求めているのは、然るべき救済措置」だと書いた。原告の一人、李玉善さんも取材に、「真実を認め、ほんとうの謝罪を一刻も早くしてほしい。その一点だけ」と語る。被害者らが求めているのは、日本政府の"心のこもった"謝罪だ。ソウル中央地裁の判決はまず、それぞれの原告が「慰安婦」にされた経緯、慰安所での生活、その後の人生について記した。被害者らの過酷な人生を語るには紙数が限られているが、それでもズドンと響くものがある。本誌では今号よりソウル中央地裁の判決文全文を緊急連載の形で掲載する。菅義偉首相をはじめ日本政府の方々にはぜひ読んでいただきたい。(文聖姫)

▼ルーマニアの独裁者、チャウシェスク大統領が民衆蜂起によって処刑される直前の1989年のクリスマス前、私はウィーンからレンタカーを運転し、一昼夜かけてハンガリー経由でルーマニアに入った。すでに内戦は始まっており、国境地帯で警備兵に銃を突きつけられたが、ジャーナリストだというと不思議に通してくれた。革命軍に寝返る直前の国軍兵士だったのか。もちろんビザなどなく「密入国」に該当する。
 2001年9月のアフガニスタン取材でもタジキスタン空軍のヘリに便乗して国境を越え、近くの村でジープと運転手を雇い、ヒンズークシ山脈越えでカブールに向かった。明らかな「密入国」だ。
 当時所属していた朝日新聞社は官僚的な会社ではあったが、紛争地や戦地に入るのにチャウシェスク政権やタリバン政権から「入国許可を取れ」などという愚かな上司はさすがにいなかった。私の経験など、シリアで40カ月も拘束された安田純平氏の苛酷体験と比べたら足元にも及ばないが、愚かな日本政府と徒手空拳で闘う安田さんの静かな怒りだけは共有できる。(本田雅和)

▼BS-TBSの番組「町中華で飲ろうぜ」(毎週月曜夜23時)は、玉袋筋太郎と高田秋、坂ノ上茜の3人がバラバラに町に繰り出し、中華料理屋さんに行って飯を食う......だけの番組だ。なんでこれが人気があるのだろう。という私も毎週録画して(酒飲みながら)見ている。
 思うにかなりの(平均的?)日本の方たちは、この「まちのラーメン屋さん」体験が長く、根強くあると思う。それだけこの番組を身近に感じ、親しみを覚えるのではなかろうか。
 2月1日の放送、玉袋筋太郎の回は「神田神保町」だった。「なんだどこ行くんよ玉筋ちゃん」と思って見ていたら、「金曜日」の2軒隣、ときたま行く「成光」だったので少し驚く。
 神保町の「木下ストリート」のことは以前ここで書いたが、その1軒、今はなき「さぶちゃん」の半チャンラーメン正統後継店だと勝手に思っているのが「成光」なのだ。
 しっかりした醤油系スープに浮かぶ麺は美しく、チャーハンは味が深い。あと歯ごたえがたまらない餃子を頼めば、味のゴールデントライアングルだ。(土井伸一郎)

▼森喜朗氏による女性蔑視発言は世界をかけめぐった。が、森氏が自身の発言を悪いと感じていないだろうことは、その後の記者会見での発言や受け答えを見てもよくわかる。さらに、この問題は、周囲がこうした森氏の態度を問題視せず、むしろ助長させてきた様子すらうかがえることがその根深さを感じさせる。森氏は、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の「みんな」から「ここは耐えてください」と慰留されたと報じられているが、なぜ森氏が耐えるのか。耐えているのは市民の側だ。こうした組織委の感覚が森氏を助長させてきた。
 また、森氏が組織委の女性について「わきまえておられる」と発言した際、評議員らから笑いがおき、たしなめる動きもなかったとも報じられた。笑うことで森氏に同調し、これを許してきた環境もある。ただ一方で、これを問題に感じた人がいたとしてもそれを発言する「雰囲気」ではなかったという面もあるだろう。こうした場に居合わせても、抗議できず笑うしかなかった経験は私も過去にある。同調し、または沈黙することで、こうした問題に加担してしまうことがあるということについても考える必要がある。(渡部睦美)