週刊金曜日 編集後記

1303号

▼辺見庸さんは、刃物のような言葉を突き立てる一方で、話し方自体はきわめて紳士的で静かなもの言いの人だ。
 辺見さんが「マスコミ大手の傲岸な記者たち」を「立派な背広を着た糞バエ」と非難していることは有名な話。元『朝日新聞』記者の私は、罵倒されることも覚悟のうえでインタビューに臨んだ。
 でも、立派な背広など持ってもいないし、内閣記者会などにはあまり興味もなく縁もなかった私としては、敬愛する先輩ジャーナリストの言とはいえ、反論したいこともいくつかはあった。しかし、そんな思いが私の傲慢さを生んでしまったのかもしれない。
 そもそも辺見さんは「ジャーナリスト」などという構えた言い方は「蛇蝎のごとく嫌っている」し、自分のことを「一介の作家」あるいは「売文業」と称する人だ。インタビュー途中でお叱りを受けた。
「相手の話を聞くのがインタビュー。対談じゃないのに君はまず自分の意見を言い、自説を開陳する。あんた変わってる」と......。
 私としては、自分の意見や立場を秘して辺見さんのような人の意見を尋ねることこそ失礼で、卑怯なことだと感じていることを懸命に説明したのだが。(本田雅和)

▼10月23日号の書籍広告(17ページ)が、岩波書店と桐野夏生の組み合わせだったので少し惹かれた。
 岩波書店から桐野作品が出るのは、多分初めてではないだろうか。取次の鈴木書店にいたころ「岩波書店」の本だけは落とすなといわれた。落として傷ができたら、その分給料から引かれるともおどされた。なぜなら返品ができないかららしい。
 その岩波から、エンターテインメント作品が多い桐野夏生が出るとは、読みたくなるではないか。『日没』は、途中から月刊『世界』で隔月連載された関係で岩波から出たらしい。途中で連載媒体がかわるのも珍しい。何かあったのだろうか。
 千葉県か茨城県と思われる、海岸線の崖の上にある研修所(もしくは収容所なのか療養所なのか)にひとりのエンタメ作家が呼び出される。所長からあなたの作品には「問題がある」と告げられる。
 あの『OUT』の作家である。映画もおもしろかったが、怖かった。これも映画にしたら誰が主役がいいか。阪本順治の『顔』の(当時の)藤山直美を思いついた。サスペンスかホラーか、サイコにも社会派にもなる、読後、爽快感ゼロの怪作。(土井伸一郎)

▼〈寺山に夕日沁み入るかぼすかな 上田五千石〉
 大分からカボスが届きました。スダチよりも二回りぐらい大きいですね。有機栽培ものながら、B級品なので送料を含めても1コ50円ぐらい。果汁がたっぷりです。
 焼き魚に搾ったり、麦焼酎やジンに入れたりして楽しんでいます。
 搾った後の皮は天日干しにしたあと、お風呂に入れると、かぼす風呂になります。リラックスや美容効果があるそうです。
 まだ試していませんが、カボスの種で化粧水がつくれるそうです。搾った時に出る種を水で洗わずにそのまま煮沸消毒したビンに入れます。日本酒または焼酎を種の3倍ぐらい入れます。長期保存するには35度の焼酎がよいそうです。
 ふたをして1週間ほど冷蔵庫で保存。とろとろっとしてきたら、目の細いザルでこして化粧水の出来上がり。アルコールにアレルギーがある方は肌に合うかどうかテストをしてから使ってくださいね。
 カボスが優れものすぎるので、手動の果汁搾り器を買ってしまいました。果汁100%のポン酢づくりに挑戦したいと考えています。
 コロナ禍で憂鬱な日々ですが、いろいろ挑戦して楽しく暮らしたいと思っています。(伊田浩之)

▼中秋の名月(十五夜)から約1カ月後の満月の直前、十三夜(旧暦9月13日)の夜の月は「栗名月」と呼ばれる。今年は10月29日にあたり、仕事から帰宅後、ベランダでビールを飲みながら月見をした。雲の切れ間から覗く月の光を見続けていると不思議な気持ちになる。あたりまえのことだが、時間は河の流れのようにずっと昔から続いている。『方丈記』を記した鴨長明もまた、末法の世で同じように月を眺めていたに違いない、などと夢想する。
 欧州各国で再び、新型コロナウイルス感染が急速に拡大している。米国でも中西部を中心に感染拡大が続いている。欧米からの「第2波」襲来をいかに水際でとどめるかは、現在、「小康状態」にあるこの国の最大の課題であると思うが、海外からの入国規制も緩和されるらしいし、もはや「なるようにしかならない」だろう。この状況下の中で、海外の人々から日本の「Go To トラベル」「Go To イート」は、どう見えてるのだろうか。
 創刊28年目に入ります。この「末法の世」をどう報道するのか、経営を支えていただいている定期購読者の方々に、毎週、問われていると肝に銘じます。(本田政昭)