週刊金曜日 編集後記

1301号

▼地方紙が世論形成に大きな影響力を持っていることは確かであろう。しかし近年、全国・地方紙問わず、多くの新聞が販売部数の減少に歯止めをかけることができない。一家で一紙購読するのが当たり前だった時代もあったが、現在、人口の多い都市部での新聞普及率は5割に満たないところもある。
 日本ABC協会「新聞発行社レポート半期」2019年1月~6月平均によると、東京の上位3紙の合計普及率は約32%で、大阪は約42%である。
 その要因は、言わずもがな長引く不況とネットの普及である。どの新聞社も急速に進むデジタル化の波に乗れているとは言い難い。
 米高級紙『ニューヨークタイムズ』も同じ悩みを抱えていたが、近年、業績はV字回復を果たした。
 同紙がそのためにまずやったのが自社分析である。記事の見せ方や伝え方に弱点があることを認めると同時に、他の媒体よりもジャーナリズムの部分では勝っていると自負したところから始めた。変化を恐れない柔軟な思考とジャーナリズムの芯になる部分に確固たる矜持があったのが強みだった。
 日本の新聞も自身のジャーナリズムの強みを改めて問うことから始めたらどうだろうか。(尹史承)

▼写真企画「庵の人々」を今週号で掲載した。写真家・野口健吾さんが10年にわたり都市の片隅に生きる人々の撮影を続けた結果を展示した写真展を開催してから約1年になる。当初は今年の春あたりにこの企画を掲載する予定だったが、新型コロナウイルスの影響で社会の空気が一変したため、掲載のタイミングを逸していた。
「庵の人々」のタイトル副題は英訳からとったというので『方丈記』の光文社古典新訳文庫版ではじめて読んでみた。「河の流れと、その水に浮かぶ泡のように、すべてのものは儚く移り変わっていき、留まりはしない」という、この世の災厄や生のはかなさといった無常感を色濃く反映した冒頭部分から始まる、400字詰め原稿用紙に換算すると二十数枚程度の分量の作品は、読み手の年齢や状況などによって多様な読み方ができる。何度も読み返したくなる本だ。
 若い頃、京都で浪人生活をしていた。当時、下鴨にあったスナック・DADDYのマスターに教えてもらった「立って半畳寝て一畳」ということわざは、座右の銘として深く心に刻んでいる。久しぶりに京都に出かけて、鴨川の流れを見たくなった。(本田政昭)

▼思い出もそして未練も/北風はそれらを運んでゆく/忘却の冷たい夜へ──詩人ジャック・プレヴェールの作詞による『枯葉』の一節(大岡信訳)だ。ビル・エヴァンスによるジャズ演奏も好きだが、歌唱なら、先月、93歳で亡くなったシャンソン歌手ジュリエット・グレコにつきるだろう。
 艶やかな「黒」ずくめのたたずまいと、深く通る歌声は、レジスタンスに参加し、戦後、サルトル、コクトーら哲学者や芸術家の「ミューズ」と呼ばれたという挿話とともに、"生ける伝説"だった。
 89歳、来日時のインタビューで、「多くの命を犠牲にやっと獲得した平和と自由を、なぜ捨てようというのですか」(『婦人公論』2016年5月24日号)と訴えていた。フランスでの極右の台頭や難民排斥の動きを念頭においた言葉だったが、当時、安倍政権下で特定秘密保護法、安保関連法など、「平和と自由」を侵食する法案の成立が続いていた日本人への強いメッセージにも聞こえた。
 日本学術会議会員の任命拒否にみられるように、菅政権下では、強権的姿勢が一層強まっている。
「平和と自由」を愛するグレコの歌の数々が、さらに胸に刺さり、心に沁みる。黙祷。(山村清二)

▼「幹事長、女性議員を本気で増やしてください!」オンライン署名は9月の開始後、10日弱で2万筆超が集まった。この署名を各党幹事長に提出し、対話を求める市民活動をジェンダー情報で紹介している。これまでに対話が実現した党は、自民党以外は1時間程度の話し合いの時間を持ち、メディアも同席した。自民党は冒頭の写真撮影のみでメディアを退席させ、対話時間も15分程度だった。
 自民党の翌日は共産党。対話では女性議員が少ないことの弊害や課題を話しあうのだが、共産党は取り組みが進んでいたので有志らが「女性候補者増に努力する、とはどの党も言うが、実現できる党とできない党がある。共産党さんはなぜ他党と比べて進んだ結果を出せているのか」と質問するほどだった。小池晃書記局長は「そもそも党員の女性比率が高いし、男女の平等は党是として、ある意味では戦前から掲げてきた政党なので、そういう積み上げがあると思う」と返答。「党員の男女比率は考えたことがなかったので新しい視点」と質問者は感心していた。
 この対話、政策的に人権に対する各党の姿勢がわかるので、非常に興味深い。全政党との対話実現を期待する。(宮本有紀)