週刊金曜日 編集後記

1300号

▼金木犀の花も咲き、ぐんぐんと冬に向かっている。生来寒さが苦手なので、寒くなると家から出るのがどんどん億劫になる。今こそテレワーク万歳というところだが、そうもいかないジレンマ。
 新型コロナウイルス感染症の流行によってこの春はテレワーク旋風が吹き荒れた。その後、緊急事態宣言が解除され、通勤電車の混雑の体感は「前よりは空いてる?」レベルまで回復、東京・神保町界隈の飲食店も結構人が戻っているように見える。テレワークを導入後やめた企業が26%というニュースも流れた。当社も全面テレワークには程遠い。原因はいろいろあるけれど、「紙」の良さが手放せないということも理由の一つだ。本誌自体も紙での発行がメインだ。だが、紙vs.デジタルの行方は長期的にはデジタルになるだろう。
 テレワークの裏にはデジタル化あり。省庁は河野太郎大臣の旗振りでハンコ廃止に踏み切る。こちらの実施方法もデジタルへの切り替えを進めていくということらしい。「デジタル庁」も創設され、デジタル化の海におぼれそうだ。誰のためのデジタル化なのか。見失いたくないけれど、今日も画面の見過ぎで目が痛い。(志水邦江)

▼帰宅した時に母がいないと、父はとたんに不機嫌になった。「これでも食べて待ってて」と、高校生の私は卵焼きを作って父をなだめた。そして、心の底で思った。(オモニ〈お母さん〉だって仕事で忙しいのに)。受験に失敗し浪人生活を送っていた私について、父の同僚はこう言ったという。「娘なんて、就職させて、その後結婚させればいいじゃないか」。だが、父の方針は違っていた。結婚しても自立して生きられるよう、娘にこそ高等教育を受けさせたい。私は大学に進学し新聞記者になった。けれども職場では、性による差別を感じることも多々あった。10月9日から上映されている映画『82年生まれ、キム・ジヨン』を見て、女性としての生きづらさは、そんなに変わっていないことを感じた。結婚、出産、再就職の断念を通じて、いつしか主人公ジヨンの心は壊れていく。ぜひ見てほしい。泣ける。先ごろ亡くなった米連邦最高裁判事のルース・ギンズバーグ氏は、女性であるがゆえに法律事務所に就職できず、大学教授になった。生涯、性差別撤廃のために闘い続けた彼女が、最初に性差別の違憲判決を勝ち取った過程を描いた映画『ビリーブ 未来への大逆転』もお勧めだ。(文聖姫)

▼抽選で欲しいものが当たったためしがない。せいぜい福引きではポケットティッシュ、お年玉年賀はがきでは切手が当たるくらいだ。かつて本欄で取り上げたシャープのマスクも当たらないだろうと思って、王子ネピアの長時間フィットマスクの抽選にも応募したが、案の定、落選通知をいただいた。
 ところが、「【第21回ご当選のお知らせ】シャープ マスク MA-1050ご購入手続きのご案内」というメールがきた。本文には「第1回~第21回までにご応募いただいた方の中から、厳正なる抽選の結果、ご当選されましたのでお知らせいたします」とあった。偶然にも所有しているテレビとスマホがシャープなので、まさか忖度されたわけではないだろうに。忘れた頃に、しかもマスクは値崩れを起こしている。辞退するか。だが、せっかく当たったことだし、購入することにした。手に取ってみると軽い。着けてみると圧迫感がない、心地よい装着感だ。これなら長時間着けても大丈夫だ。50枚で送料込み3938円は決して安くはないが、価値はあると思った(あくまでも個人の感想です)。先般、マスク嫌いの大統領が感染した。やっぱり感染予防にマスクは欠かせないのだ。(原口広矢)

▼読者のみなさんは「出川哲朗の充電させてもらえませんか?」(テレビ東京系)という番組をご存知だろうか。
 お笑い芸人の出川哲朗が、ゲストや同行ディレクターとともに電動バイクにまたがり全国を旅するバラエティ番組だ。
 電動バイクは2時間フルに充電しても二十数キロしか走れない。だから出演者は行く先々で充電がカラになった重たいバイクをフウフウ押しながら民家等をアポなしで訪ねて電気を無心するのである。見ようによっては図々しいことこの上ない企画だ。
 スイカ柄の半キャップヘルメットをかぶった、オーバーオール姿の出川があのダミ声で「すみませんが充電させてもらえませんか」とお願いして回る様子がすでに笑いを誘うが、出川の人のよさが画面から伝わってきて嫌みがない。
 それで大抵の人が充電を快諾してくれて、見ているこっちも「世の中まだまだ捨てたもんじゃないなあ」と勝手に温かい気持ちになるんである。
 コロナ禍の例にもれず、この番組も過去の放送回を再編集して放映しているが、電動バイクの旅ロケが早く復活するといいナと思いました。(斉藤円華)