週刊金曜日 編集後記

1293号

▼「商売で最も大切なのは人、そして信頼。お金より人に重点を置きます。利益より信頼に重点を置きます」――ネットフリックスで配信中の韓国ドラマ『梨泰院クラス』で主人公が吐くセリフに何度もうなずいた。ドラマは、巨大外食産業の経営者と御曹司によって父を奪われ、前科者になった主人公が、仲間とともに復讐を成し遂げる話だ。復讐の方法がスカッとしていて気持ちいい。同じ外食産業で成功し、最終的には復讐相手の企業を買収し傘下に収める。新たに代表となった主人公が、株主らを前に演説する。それが冒頭のセリフだ。主人公に復讐される経営者も、家族に腹いっぱい食べさせたいという思いから食堂を始め、懸命に店舗を広げてきた。しかし、初心を忘れ、いつしか人よりお金、信頼より利益を重視するようになり、落ちぶれた時には誰も助けてはくれなかった。
 人と信頼が大切なのは、商売に限ったことではないと思う。たとえば、私のような記者、編集者という仕事もそうだ。何事にも誠実に臨む。そのことによって、人との関係が築かれ、信頼が生まれ、良い仕事につながる。(文聖姫)

▼これを書いているのは8月23日だが、全国的に見れば明日24日から2学期が始まる学校も多いようで、今年の宿題はいつもと違うとテレビで紹介されていた。たとえば自由研究の内容がコロナ関連だったり、絵日記に書くような楽しい思い出がないからと唯一出かけた墓参りのことを書く子や、楽しかった幼稚園の思い出を書いたりする小学生までいるそうだ。
 大人だって、みんなが楽しみにしていた夏休み(私の夏休みも終わりました)。それなのに地方への帰省は自粛しろとか、東京都民だけ他県をまたぐなとか言いつつ、「Go To」ってまったくわからない。アクセルとブレーキを同時に踏んでいるようなものだと誰かが言っていたけど、"車"はそのうち壊れてしまうだろう。
「コロナと子ども」の特集で「子どもの時間軸は大人とは違う」と木附千晶さんは書く。東日本大震災のときもそうだったけれど、いま出ている問題はコロナをきっかけに見えるようになっただけでもある。コロナを理由に子どもを理不尽なことに巻き込んではいけないし、大人だってそれにはNOを突きつけたいと思う。(吉田亮子)

▼「水に落ちた犬を打つ」という魯迅の言葉がある。「人を咬む犬なら、たとい岸にいようとも、あるいは水中にいようとも、すべて打つべき」「犬は、いかに狂い吠えようとも、実際は『道義』などを絶対に解さぬのだから。まして、犬は泳ぎができる。かならず岸へはい上って、(略)逃げ去るにちがいないのである。しかも、その後になっても、性情は依然として変らない」「まれに負傷したように見えることがあっても、実際はそうではなく、(略)人々の同情を引き、(略)いつかまた勢力を盛り返したときには、やっぱり前と同様、(略)ありとあらゆる悪事をはたらく」『魯迅評論集』竹内好編訳(岩波文庫)。
 コロナ禍における失政や閣僚等のたび重なる不祥事により、支持率が低下する安倍政権。もはや政権末期でレームダックであろう。そして、ここにきて安倍晋三首相の健康不安説も囁かれている。
 健康不安に関しては、謹んでお見舞い申し上げる。しかし、この政権が隠蔽、改竄、恫喝などを平気で行なう「道義」などを解さない政権であることを決して忘れてはならない。(尹史承)

▼「神保町の顔」とも言われた飲食店「キッチン南海」が6月に閉店した。弊社の近所の店だが、以前在籍した洋書輸入会社が真向かいにあった(今はない)ため、出前も含めてほぼ毎日、名物の「黒いカレー」はもちろん、安くてボリュームがあるセット定食など、安月給の身には大助かりだった。最近は行けなかったのが心残り。
 同店閉店の理由は建物の老朽化とのことだが、コロナ禍での閉店や倒産は益々増えている。私が住む市でも、老舗旅館や大きなホテルが廃業した。そんななか、観光業救済をうたって強行された「Go To キャンペーン」だが、成果が低いらしいのは当然だろう。自分が感染を拡大させるかもしれない不安のなかで、旅行気分になれるはずもない。予算1・7兆円かけるなら、持続化給付金などで配分したほうが、感染拡大につながらず、ずっとマシだったのでは?
 実際、「Go To」で懸念された通りのコロナの全国への感染拡大で、沖縄をはじめ各地で医療体制が逼迫している。まぎれもない「人災」。いや、「アベ災」だろう。安倍晋三首相の健康不安以前に、歴代最長の総理連続在任で、この国が瀕死の「重症」状態だ。(山村清二)