週刊金曜日 編集後記

1289号

▼新型コロナウイルスで暮らしや社会が変わろうとしています。なにをどのように捉えたらよいのか、まるごと1冊に近い特集を久しぶりに編みました。資本主義を野放しにし、貧富の格差が広がった米国などで被害が著しくなっていることなどから、根本的な転換の必要性を示唆する論考もあります。
 マルクス経済学者の宇野弘蔵は次のように指摘しています。
〈資本家的商品経済が、あたかも永久的に繰り返すかの如くにして展開する諸法則を明らかにする経済学の原理自身によって、その原理を否定する転化が説きえないことは当然と考えるのであるが、しかしこのことは資本主義社会自身の永久性が経済学によって説かれるということではない〉(『経済原論』岩波文庫245ページ)
 この「あたかも」が重要です。資本主義しかないと考える風潮がありますが、別の世界を構想する力が必要です。それは一党独裁の旧ソ連・東欧、中国などを目指せということではありません。暴力革命もありえないでしょう。
 考えることはいっぱいあります。この特集がヒントになれば幸いです。ご協力いただいたみなさまに深く感謝します。(伊田浩之)

▼「まさかの事態」が僕たちの生活に侵入してきたことを自覚したのはいつ頃だったろうか。2月27日、安倍晋三首相が全国の小学校・中学校・高校などについて臨時休校に入るよう要請する考えを示したあたりからか。3月20日、航空自衛隊・松島基地で強風の中、聖火到着式が(規模を縮小しながら)「予定どおり」行なわれた。3月23日、小池百合子東京都知事が「都市の封鎖、いわゆるロックダウンの可能性」を発言。3月24日、東京五輪開催延期が発表される。4月7日、緊急事態宣言発令。
 気がつけば「まさかの事態」という日常を生きている。もう元に戻ることはないかもしれない。仕事帰りに立ち寄っていた中野のバー・ブリック、神保町の銀漢亭、餃子の名店スヰートポーヅ、小さな時計修理店など多くの店がコロナ禍の影響からか閉店していた。
「みんな今、なにを読んでいるのだろう」。これからの世界をよりマシなものとするために、一人ひとりが自分のアタマで考えるためのきっかけとなればと「25人が選ぶ100冊」を掲載した。4人の論考も含め、自分の立ち位置を再確認する。僕らは、いま、旅の「途上」にある。(本田政昭)

▼書籍常備の取次搬入が完了した。常備とは、常備寄託のことで、書籍を書店に預かってもらい、販売してもらう制度のことだ。一定期間、書店の棚に自社書籍が並び売り上げが見込まれるため、多くの出版社が運用している。イメージとしては、救急箱の常備薬だ。使った薬(売れた本)を補充することによって売り上げとなる。
 7月に新セットを搬入し、書店に旧セットを返品してもらう。7月に搬入するためには5月中に搬入日とセット明細を決めなければならない。セットの中味は毎年ほぼ同じだが、売れ行きの悪い書籍をはずし他の書籍を新たに加える。
 昨年の売れ行き上位は、『ひとめでわかるのんではいけない薬大事典』『新装版 電通の正体』『加害の歴史に向き合う』『香害』『私の1960年代』『はじめてのマルクス』『新・買ってはいけない(10)』『内容証明 文例200』であった。持続化給付金の問題で電通が注目されたため『新装版 電通の正体』はよく売れている。今年はコロナ禍が深刻なので、『住宅ローン返済苦しくなったら読む本』を加えた。弊社常備取り扱い書店については、業務部までお問い合わせください。(原口広矢)

▼九州から本州にかけての豪雨災害で、コロナ禍から徐々に回復しつつあった観光地なども含め、各地が甚大な被害を受けた。災害で建物やライフラインが壊滅的な損壊を被っていて、いまは何よりその復旧こそが急務のはずだが、政府が発表したのは何と「Go To キャンペーン」の先行実施! 豪雨災害では、各地の病院も被害に遭い、しかも、東京を中心にコロナ禍が再拡大の傾向にあるいまこれか。現実との乖離に愕然とする。
 一方で、熊本の災害では、川辺川ダム計画の中止が氾濫を呼んだとして、ダム建設を復活させるべきという声が再燃している。根本の問題は、この国の治水・防災対策の貧しさにあるのに、これを覆い隠すこうした言説は、「ショック・ドクトリン(惨事便乗型資本主義)」以外ではないだろう。
 コロナ禍対策も相変わらず酷い。
またぞろ緊急事態宣言発令の声が高まりつつあるが、結局は自粛・休業という市民の首を絞める要請ばかりで補償はなく、さらに今度は応じない場合に罰則が科される可能性さえある。無能無策・有害無益な安倍政権には即刻退陣してもらわなければ被害はますます深刻化するばかりだ。(山村清二)