週刊金曜日 編集後記

1266号

▼年明け初出社の朝、最初の作業は机の上に載せた段ボールを下すことだった。年末の大掃除で「とりあえず」と詰め込んだ資料とメモ。前発行人の北村肇さんから引き継いだものだ。これらにざっと目を通すだけで、金曜日の社長という立場の厳しさが偲ばれる。
 その北村さんが旅立ってしまった。昨夏、体調を崩されて入院した当初の病院は、私の自宅から徒歩数分の距離だ。しかし面会は難しいとの連絡を人伝に聞き、何も行動を起こさなかった。正直に申しあげると、その知らせに安堵し、言い訳をする自分がいた。権力と闘い続けた北村さんが、病と闘う姿に向き合うのが辛かった。
 北村さんは超一流のジャーナリストだった。経営者としてはどうだったか。私は厳しい環境のなか、身を粉にして、できうることに尽力してくれたと思っている。まったくできの悪い部下で苦労をかけてしまった。ただ部下として接した13年の経験は何よりも代えがたく、こうした時間を与えられた偶然に感謝している。(町田明穂)

▼昨年末、火災が起きた首里城へ行ってきた。ちょうど正殿の近くまで開放されたばかりだったせいか、駐車場には大型バスが止まり、団体やたくさんの個人が見学に訪れていた。まだ焦げた臭いがする焼け跡に向かって手を合わせる人たちもいて、沖縄の人にとっての存在の大きさがうかがえた。
「不屈館 瀬長亀次郎と民衆資料」では、平和の象徴「首里城」と題して「復元資料展×山城博明写真展」が行なわれている(3月30日まで)。亀次郎が首里城復元期成会顧問だったころの資料や、復元の様子を撮影した山城さんの写真を見ることができる。焼けて消失したものも多く貴重である。
 貴重と言えば昨年山城さんによる不屈館の紹介記事で(11月29日号)、1952年4月1日の琉球政府創立式典で立法院議員が米軍へ宣誓する式典の写真がある。全員が脱帽し、起立するなかで、亀次郎だけが着席している。場所は琉球大学、現在燃えてしまった首里城正殿だというから、歴史の不思議さにクラクラする。(吉田亮子)

▼日曜日に公園を散歩していると、ロウバイが見頃を迎えていた。鼻を近づけてクンクンすると、甘酸っぱい良い香りがする。ああ春近しだなァ......ってまだ1月だよ!
 近年まれにみる暖冬で開花が半月ほど早まっているようだ。白梅、紅梅はまだ見頃ではないが、ちらほらと花をつけ始めている。春の到来はうれしいけれども、この冬は降雪量も少ないと聞くし、夏はまたまた猛暑で渇水やら巨大台風やらにおののくのか......と心配が先に立ってしまう。
 近年多発する異常気象は、地球温暖化にともなう気候変動の影響が大きいとされる。「私たち一人ひとりに何ができるか?」と考えるのは自然なことだが、ヨリ大きくは政府や、大量消費を仕向ける経済界が責任を負うべきだ。
 その上で「環境への負荷が少なくてすむ生活」を各人それぞれやってみるのがいいのではないか。
 近所の散歩などは化石燃料の消費が限りなくゼロだし、季節のうつろいも感じられる。草木や野鳥の知識があればさらに楽しい。しかも0円だ。(斉藤円華)

▼今号では、久しぶりの「新龍中国」で台湾総統選について取り上げました。投開票日夜に行なわれた蔡英文の勝利宣言スピーチがなかなかよくて、中国に向け「平和、対等、民主、対話の8文字を」と言い、蔡英文を攻撃する中国とは好対照です。また蔡英文は自分に投票しなかった有権者に向けても「私たちは台湾人。すべての台湾人は家族だ。対立はやめて家族を抱きしめて」と呼びかけ、自分に批判的な有権者を「こんな人」呼ばわりするどこかの国の首相と、これまた好対照な一節。
 さて、その中国、否、世界中で新型肺炎が深刻です。日ごと倍々で増える患者数と死亡者数に驚愕です。武漢をはじめとする都市封鎖にも唖然。ただ、日本で感染が広がる恐怖はわかりますが、ワイドショーなどの「日本に来た中国人観光客に注意」的なニュアンス(そう、あからさまには言わない。でも見ているほうはそういう印象を受ける)の報道を見ると、「ちょっと待って」と言いたくなってしまいます。(渡辺妙子)