週刊金曜日 編集後記

1264号

▼誰かは、待っていてくれていたんじゃないか、映画ベスト5の季節がやってきました。劇場で見た本数は34本、週1本のペースもいかない体たらく。『アイリッシュマン』など3時間を超えるものは躊躇ってしまう。久々の加藤泰監督特集「情念の横溢」(新文芸坐)は行ったけど、全体的にフットワーク悪し。順不同で。
『ウトヤ島、7月22日』『運び屋』『主戦場』『僕たちは希望という名の列車に乗った』『i 新聞記者ドキュメント』。
 2011年7月22日、ノルウェーのウトヤ島で起こった銃乱射事件では77人が死亡。アンネシュ・ブレイビク(32歳)はオスロの政府庁舎を爆破し8人を殺害したのち、警官の制服を身に纏い、サマーキャンプで賑わうウトヤ島に機銃を抱えひとりでやってきた。97分の作品中、そこからの72分をワンカットで撮影する。エリック・ポッペ監督は見る者に何を提示したかったのか? ブレイビクに、「やまゆり園」の植松聖の思考を想起してしまうのは私だけだろうか。
『主戦場』は腹が立つより、可笑しく、そして薄気味悪かった。(土井伸一郎)

▼年末から年始にかけて、試写会で3本の人物ドキュメンタリー映画を立て続けに観た。
『愛国者に気をつけろ! 鈴木邦男』監督・中村真夕(2月1日東京・ポレポレ東中野にて公開)。
『現在地はいづくなりや 映画監督東陽一』監督・小玉憲一(2月22日・ポレポレ東中野にて公開)。
『友川カズキ どこへ出しても恥かしい人』監督・佐々木育野(2月1日・新宿k's cinemaで公開)。
 ドキュメンタリーの対象になった人物は、確かに強烈な個性や自我を持ち、圧倒的に魅力的なのだが、違う視点で見れば(ある意味)かなり面倒くさい人でもある。
 面白いもので、個性の強い人には独自の磁石のようなチカラがあり、その人を支える人々が自然に生まれ、結果としてその人の生活や活動を応援しているようにもみえる。
 何も変わらない友川カズキさんの姿を見て「あ、進歩しなくてもいいんだ!」と気づいた。と佐々木監督のコメントが資料にあった。〈進むのはやめた。人生を遊ぼう。人生はかるい悲劇だ。〉同感。
 少し、ホッとする。(本田政昭)

▼年末、中国で吉備真備が書いた墓誌が発見されていたというニュースを聞く。唐は遣唐使として中国に渡った吉備真備や阿倍仲麻呂などの外国出身者も活躍する社会だった。ササン朝ペルシアからの亡命者も受けいれたほどだ。一方で帝国としての軍事行動も目立った。杜甫はその詩「兵車行」で、動員される庶民の姿と、西域の鬼哭啾啾の有様を描いた。いつの時代も戦争は庶民を苦しめる。
 年末には本誌前発行人の北村肇氏の訃報も流れた。ちょうど1年前には『日刊ゲンダイ』で元気に闘病生活を語っていて、全快するのではないか、と思ったくらいだったのだが。初めて会ったのは2006年の面接の時で、不思議な髪型のおじさんが北村さんだった。共謀罪廃止の願掛けで、成就するまで髪は切らないらしい、と聞いたのはあとのことだった。下町出身で庶民の目線で弱者に寄り添って権力と闘う人だった。
 年明け早々イランの司令官をアメリカが爆殺したニュースに触れ、ふと「北村さんだったらなんと言うか」と思ったが彼はもういない。人生足別離(さよならだけが人生だ)。(原田成人)

▼2019年に政治家が行なったジェンダー差別発言のワースト投票が昨年末~今年1月9日に行なわれ、11日に結果が公表された。昨年に続き、今年も麻生太郎財務相がワースト1位、2位安倍晋三首相、3位平沢勝栄議員と続く。首相側近の萩生田光一議員もノミネートされている。今週号はジェンダー情報ページがないので来週号で詳細をお伝えする予定だ。
 発言もさることながら、なぜそれがだめなのかわかっていないことこそ問題ではないかと思う。今回、一般聴衆やメディアに対し自分の考えを示したものではないとして、丸山穂高議員の「おっぱいもみに行きたい」などの発言は投票対象とならなかったが、議員としての品位を疑う。このような人物を当選させた側の責任も感じるべきではないか。有権者としては投票で決着をつけるしかない。
 1月26日には萩生田議員の地盤である東京・八王子市で市長選がある。現職などの与党系と市民のための政治を訴える野党系新人ら4人が立候補を予定しており、市民がどのような選択をするのか注目している。(宮本有紀)