週刊金曜日 編集後記

1258号

▼香港映画の影響からか、香港警察に何となくほんわかしたイメージを持っていた人は多かったと思うが、今の香港警察は完全に正気ではない。常軌を逸している。
 デモ隊の若者だけでなく、子どもやお年寄り、妊婦にまで殴りかかり、押さえつける。1人の市民に何人もの警官が襲いかかる。丸腰で近づいてきたデモ隊の若者に突然、発砲する。そして実弾で撃たれ意識を失った若者を救護するでもなく、グラグラになった彼の体を無理矢理立たせようとする。大学にも突入、とんでもないことになっている。
 ネットには香港警察のやりたい放題を記録した動画が、たくさんアップされている。一部メディアでは、香港警察の対応は反政府勢力による暴力が元凶であるかのように報道されているが、動画を見れば、警察側の過剰なものであることは想像に難くない。暴徒はデモ隊ではなく、警察のほうだ。人民解放軍も動きだした。
 ロイター11月14日配信のニュース動画(日本語版)によると、香港警察は「香港社会は崩壊寸前だ」と言っているらしい。しかし崩壊に追い込んだのは市民側ではなく、香港当局そのものなのではないかという疑念はぬぐえない。(渡辺妙子)

▼今回の特集に入れることはできなかったが、校則のない東京・桜丘中学校の生徒手帳に載っている「子どもの権利条約」は、国連で採択されてから今年で30年、日本で批准されてから25年が経った。今年3月には、子どもの状況について日本政府とNGOが提出した報告書を受けて国連「子どもの権利委員会」が、子どもの権利条約に基づいて第4・5回の「勧告」を政府に対して出している。
 子どもの権利条約に関するNGO「子どもの権利条約(CRC)日本」で長年理事を務め、ジャーナリストで臨床心理士の木附千晶さんに国連勧告の中身を聞くと、「その画期的特徴は子どもの成長発達権を害しているのは従来言われてきたような戦争や飢餓などではなく、『社会の競争的な性質である』と明言したこと」と言う。
 さらに、「意見表明権を活性化することで成長発達権を保障し、『ストレスの多い学校環境からの解放』『児童相談所の一時保護の慣行の廃止』『共同親権制度の導入』などを勧告。立法・予算・保護政策を駆使して、あらゆる権利侵害から『子どもを救え』とまで言っている」とのこと。ストレスの多い学校環境については、ぜひ今号を。子どもの権利条約についてくわしくは、あらためて取り上げる予定です。(吉田亮子)

▼沖縄の首里城で火災が起きた日、さまざまなメディアで嘆きの声が伝えられる一方で、宮古・八重山の人からは「沖縄"本島"の人にとっては大変悲しいことのようだが、こちらからすれば首里城は支配の象徴でもあり、感情は複雑だ」などという声を聞いた。
『八重山毎日新聞』の比嘉盛友記者はネット版11月16日付コラムで、「今から116年前まで、宮古・八重山には琉球王府時代に課せられた人頭税があった。15歳から50歳まで年齢、性別に応じた頭割りの税。男性は穀物、女性は織物を納めなければならない。その税制は各地に悲劇をもたらした」として、「税を増やさないための人減らし、間引き」が横行していたことを指摘。この人頭税は廃止運動を受けて1903年に廃止されたが、「首里城はかつて、先島にとって圧政の象徴であった。そういう歴史も内包していることを踏まえつつ、早期再建を望みたい」とコラムを締めくくっている。
 ただ一方で、ネットでは人頭税による悲劇があったことを持ち出し、宮古・八重山の人が今回の火災を喜んでいるなどと言い、「オール沖縄」の分断を煽るかのような動きも見る。多角的な歴史観を踏まえることは重要だが、他者の複雑な感情を単純化して代弁しようとするのは横暴だろう。(渡部睦美)