週刊金曜日 編集後記

1257号

▼NHKの大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」には、「反五輪」ドラマでは、と思える描写が随所に出てくる。特に印象的だったのが、「併合」で"日本人"として走り金メダルを獲得した、朝鮮半島出身の孫基禎選手の回。
 表彰式の「日の丸」「君が代」をラジオで聞く人たちに「(孫選手は)どんな気持ちだろうね」「朝鮮の人ですもんね」と言わせる。「併合」まで「美化・正当化」する国へのメッセージに聞こえた。
 韓国の文在寅大統領と安倍晋三首相との「対話」報道では、〈韓国の経済成長率が2%程度と失速するなど、追いつめられた文大統領が焦っているのだから妥協する必要はない〉などといった見下した評価が目につく。オイオイ。日本の経済成長率はいまや1%を下回りつつあるのだから、韓国経済よりもっと危機的だよ、とついツッコミを入れてしまう。
 嫌韓が、過去だけでなく、現在の自国評価も歪める。むろん、それが韓国を敵視し続けてきた安倍政権の戦術だが、客観的事実さえ報道できないメディアは、もはやメディアではない。(山村清二)

▼英BBC放送が選ぶ、世界の人々に感動や影響を与えた今年の「100人の女性」が先月発表され、立命館大学相撲部の今日和さんと、パンプス強制NOの署名活動#KuTooを始めた石川優実さんも選ばれた。石川さんに感想を聞くと「石川優実というより#KuToo運動自体が評価されたものだと思っています。みんなのアクションが大きな運動になって、たまたま発信者の私が選出されただけなので、運動に参加してもらった全ての人が評価されたと言っても過言ではないと思っています。本当にありがたいことです。会社でも服装規定を見直す動きが少しずつ出てきているので、厚労省は早く労働者のために動くべきだと思います」と話してくれた。
 大相撲の「女人禁制」の壁と向き合ってきた今さんと、服装強制はハラスメントだと声をあげた石川さんが選出されたことは嬉しい。でも石川さんも言う通り、まだ道半ば。女人禁制や服装強制などの女性の道を阻む問題が解消され、#KuTooなどの運動が必要でなくなる社会になることが一番嬉しい。(宮本有紀)

▼最近会社(東京・千代田区)の周辺で警察官がうろついているのをよく見かける。天皇関係の行事があるためだ。10月22日には天皇制反対デモで3人の逮捕者が出ている。容疑は公務執行妨害で結局、不起訴処分になっている。明らかな弾圧だ。天皇とその仲間たちが市民の税金でまかなわれるパーティをしている最中に3人は勾留されていた。天皇制と暴力の関係を考えざるをえない出来事だ。また、11月9日には皇居前で天皇の即位を祝う「国民祭典」が行なわれ、イベントの最後に万歳三唱が延々と続いたという話にも戦慄する。テレビで見慣れたタレントたちが万歳三唱している姿を見ると、戦前の政治体制と結局のところ決別できていない現代日本の現実が日常と地続きであることが突きつけられ、名状しがたい気持ち悪さを覚えてしまう。
 萩生田光一文部科学相の「身の丈」発言も、結局、天皇制という身分制度がいまだに日本社会に鎮座することと無縁ではない。身分制社会ではそれぞれの「身の丈」を知り、それから逸脱しないことが求められるのだから。(原田成人)

▼毎度韓国ネタで恐縮だが、6日から9日までソウルへ行った。本誌10月25日号本欄でお伝えした拙著『麦酒とテポドン』韓国語版出版記念講演会に参加するためだ。時間の合間を縫って、西大門刑務所歴史館を初めて訪れた。日本の植民地統治時代には独立を勝ち取ろうと戦った運動家らが、朝鮮解放後の軍事独裁政権時代には民主化を成し遂げようと独裁政権に立ち向かった人々が投獄された場所だ。処刑された人もおり、いまでも絞首刑場が当時のまま保存されている。地下の拷問室を訪れると、拷問シーンを再現した人形の姿に背筋がぞっとするような感覚に襲われた。捕まった独立運動家らの顔写真が壁いっぱいに貼られた部屋では言葉を失った。
 1908年、京城監獄として開所し、西大門刑務所に改称されたのは23年。解放後の45年にソウル刑務所に変更され、後にソウル拘置所となった。87年に拘置所が京畿道に移転したのを機に79年の歴史に幕を閉じた。私が訪れた日、小学生から高校生まで多くの生徒たちが見学に来ていた。(文聖姫)