週刊金曜日 編集後記

1255号

▼木村英子さんの参議院議員当選後に、本誌にも度々登場いただいている安積遊歩さんと話す機会があった。安積さんは、かつて木村さんが自立生活を始めた東京・国立市を活動の拠点にしていた(現在の安積さんの拠点は札幌市)からだが、「木村さんは、三井絹子さんの流れをくんでいるの」との話。三井さんは、施設の環境改善を求めて都庁前に座り込むなど、1970年代の当事者による障がい者運動を牽引した人。木村さんが書記長を務める全国公的介護保障要求者組合の現委員長でもある。
 重度障がいの人たちにとって、「自立」や「つながり」といった言葉は、健常者とはまるで違う内実を持つ。三井さんや木村さん、安積さんらが一歩一歩、切り開いてきた地平の重みは、想像を遥かに超える。安積さんが語った「私たちにとっては、息をすることも仕事なの」との言葉が胸に迫る。
 今回、若松英輔さんの、言葉の襞にまで分け入る木村さんとの対談を通し、議員活動も含めた木村さんらの活動が、私たちとつながる "いのち"そのものの追求だと改めて教えられている。(山村清二)

▼台風19号は東京都内にも大きな被害をもたらしている。多摩西部の奥多摩町や日の出町では、集落を結ぶ車道が記録的な大雨で崩れ、いまも復旧作業中だ。
 私にとってはハイキングや登山で訪れる地域。「日原」や「つるつる温泉」など、なじみのある場所が道路の寸断で孤立したのには少なからずショックを受けた。しかし、クルマの通行はまだ無理だが、水道が復旧し、仮設通路で住民の行き来はできるようになったようで、そこは少しほっとしている。
 それにしても、気候変動の影響がこういう形で身近に降りかかるとは。異常気象の災害は「南の島が海面上昇で水没する」といった「遠い場所の話」ではない。もちろん頭では分かっていたつもりだが、やはり直面してからでないと、その実感はわきにくい。
「にぶい!」と言われたらそれまでだけれども、せめて自分にできることはしたい。といっても、当面私にできそうなのは、再びハイキングや山歩きで奥多摩を訪れることくらいだが......。
 今年の秋は台風を別にしても雨の日が多いが、天気が落ち着いたら早速歩いてみたい。(斉藤円華)

▼税務申告漏れが発覚したお笑い芸人・チュートリアルの徳井義実を擁護する気はさらさらないが、税金を払いたくないであろう彼の気持ちも理解できなくはない。
 公職選挙法が禁じる選挙区内での寄付行為に関する疑惑で菅原一秀経済産業相が辞任した。安倍政権下、不祥事での閣僚辞任は何人目であろうか。彼ら議員を食わせているのは、私たちの血税である。
 都度、安倍首相は、「任命責任は私にある」と白々しく繰り返すが、その"ある責任"を取らないことを世間一般では「無責任」と呼ぶ。
 しかし、一連のモリカケ問題等、自身の重大な疑惑でも一向に責任を取らなかった人間が、ひとの不祥事で責任を取るわけもない。
 麻生太郎財務相は、川崎や北九州などを、品が良くない場所というニュアンスの発言をしたが、一番品がないのは、公文書の改竄や隠蔽を平気で行ない、居直る安倍政権そのものであろう。
 首相の任命責任は誰あろう有権者にある。これ以上独裁者が牛耳る「品のない国」にしないためにも有権者には賢明な判断が求められる。(尹史承)

▼「周りは金色の栄光に輝いて見えるが中の方は真っ黒に腐っている」。池田勇人政権下での汚職事件が基の小説を山本薩夫監督が映画化した『金環蝕』の一節だ。理念は崇高でも、実態は乖離しているという状況は至る所にある。
「日弁連における男女共同参画の推進は、(中略)司法への市民の信頼を高める重要な意義を有している」。『弁護士白書2018年版』は冒頭でこのような理念を掲げている。この10年間、司法のさまざまな分野で女性の割合が増えたことがグラフや表からはわかる。
 しかし、気になるのは、弁護士の懲戒請求を扱う懲戒委員会における女性の割合が、2008年は12・5%だったのに18年は0%、という後退ぶりだ。懲戒請求は、まずは所属の弁護士会で審査され、結果に異議申出をすると、日弁連の懲戒委員会(場合によっては綱紀委員会)が最終審査する。日弁連に、女性が0%の理由や選任方法などを問い合わせたが、答えられるか検討したいという。こういう"身内"を審査する分野こそ、透明性を確保して信頼性を高めるべきではないのか。(渡部睦美)