週刊金曜日 編集後記

1253号

▼友人の息子の「オレ行けない」のひと言で、10月5日ラグビーW杯アルゼンチン×イングランド戦のチケットが私のところに舞い込んだ! 場所は東京・味スタ。明大前駅で京王線に乗り換えたら、もう車内は両国のジャージでむせかえっていた。
 飛田給駅で下車すると、スタジアムまでの歩道ではイングランドのアンセム(賛歌)『スウィング・ロウ・スウィート・チャリオット』が歌われている。これはアメリカのナッシュビルで1870年代に歌われていた黒人霊歌。なぜかそれが1990年ごろからイングランドのアンセムとして根づいた。謎である。個人的に好きなアンセムはスコットランドの『フラワー・オブ・スコットランド』。4年に一度これを聞くと泣きそうになる。多分前世はスコットランド人なのかもしれない。スコッチが好きなのもうなずける。
 1987年、日本×ニュージーランド戦は4対106。しばし観客席から動けなかった。本場に対抗できるスクラムが組める日が来るのだろうかと絶望した。日本のアンセムは、岡林信康の『友よ』でどうだろうか。(土井伸一郎)

▼「ノーベル文学賞は外国人に」
10日夜、共同通信社の速報の見出しに呆れる人びとのツイートがTwitterのタイムラインに流れてきた。驚いて記事を読みに行ったが「2018年、19年のノーベル文学賞受賞者は、いずれも日本人ではなかった」とあるだけ。受賞者の国籍だけが問題で、受賞者や作品にはまるで興味がないようだ。この頽廃した内向きの姿勢は「日本スゴイ」番組や書籍、反韓ヘイト本が巷に溢れる日本社会のありようともつながっている。
 出入国在留管理庁は10月1日、今年6月に在留資格のない外国人を収容する大村入国管理センターでナイジェリア国籍男性が死亡した事件についての調査報告書を発表した。男性は亡くなる前に収容からの仮放免を求めてハンガーストライキをしていた。発表された調査報告書によれば直接死因は「飢餓死」。報告書は同センターの対応について「不相当であったと評価することは困難」としている。ハンガーストライキはいまも各地で続いている。これ以上犠牲者をださないためには、日本の市民社会が入管政策と向き合い、声をあげなければならない。(原田成人)

▼今週号で写真企画「『神国』の残影」を掲載した。写真家の稲宮康人さんが大型カメラを携え「大東亜共栄圏」と称した海外各地に建設された神社跡地を撮影した約10年に及ぶ旅の記録です。
 この旅をついに完成させた稲宮さんが、長大な旅路の全体像をふりかえり、数々の作品を解説するイベントが東京・池之端の古書店で行なわれる。
 11月8日(金)18時30分開場・19時開演。場所:古書ほうろう(東京大学池之端門前・TEL・03・3824・3388)。入場料1500円(要予約・30人限定)。問合せ・予約は、京都の編集グループSURE(TEL・075・761・2391)またはメール(Mail・info@groupsure.net)まで。
 この企画は「SURE連続イベント@東京・上野」のひとつで、他にも同場所で、10月23日(水)「『鶴見俊輔さんの仕事』とは何だったか?」。10月30日(水)「今の日本の経済と社会」。11月20日(水)「自分の街で生きるには」。11月29日(金)「移民社会をどう迎えるか」。12月4日(水)「中川五郎ライブ!」など。各回1500円。要予約。(本田政昭)

▼東郷和彦氏へのインタビュー(9月6日号掲載)をまとめた担当者として10月4日号の乗松聡子氏の投書に応えます。
 個人請求権が消滅していないという日本政府の立場への言及がないのは単なる紙幅の都合です。重複する指摘ではなく、多くの考える材料を提供したいと思いました。
 韓国側から新協定の提案があれば日本政府は真摯に話し合うべきだと東郷氏は強調しました。真の相互理解にたつ、爽やかな協定になるように期待したいものです。被害者への償い・救済につながる方向性を提示しているのです。
 また東郷氏は、日韓の認識ギャップを埋めるためには、できうる限り韓国側の立場にたって考える必要性を一貫して著書で説いています。一例をあげます。〈植民地支配に対する怒りと恨みの深さに対する日本人の理解が不十分だと考える。日本人には、自らの歴史に照らして考え直していただきたい〉(『危機の外交』角川新書)
 危機的な外交状況を乗り越えるには、多くの人々の智恵と力を結集する必要があると思います。弊誌がその一助となれることを願っています。(伊田浩之)