週刊金曜日 編集後記

1241号

▼「慰安婦ないし従軍慰安婦とは、太平洋戦争終結前の公娼制度の下で戦地において売春に従事していた女性などの呼称の一つ」。元『朝日新聞』記者で本誌発行人の植村隆(韓国・カトリック大学校客員教授)が、「慰安婦」関連の記事をめぐって名誉を傷つけられたとして、西岡力氏や文藝春秋社を東京地裁に訴えていた裁判で、原克也裁判長らは原告の請求をすべて棄却する判決を下した。冒頭の文章は、その判決文にある一節だ。元日本軍「慰安婦」を「戦地において売春に従事していた女性」と言う歴史観の持ち主が裁判体だったのだから、勝つ方が無理ということかもしれない。
 植村裁判は、植村個人の名誉回復にとどまらず、元日本軍「慰安婦」の尊厳を回復するためのものでもあったが、判決を読む限り、元「慰安婦」たちの尊厳はさらに傷つけられたと言ってよい。本誌で報道人の徃住嘉文氏が書いているように、日本軍が打ち砕いたのは、夢を持って生きようとした少女の人生だ。そうした彼女たちの人生に思いを馳せることのない、非情な判決だと言ってよい。もとよりこのような判決に納得できるはずもなく、植村の代理人は9日に東京高裁に控訴した。(文聖姫)

▼先週だったか、新聞の折り込みチラシに、ある政党の選挙用のものがあった。何気なく文字を追うと、「地域どこでもWi-Fi!」とある。あらあら、これだけ電磁波過敏症などをとりあげている(うちだけか)昨今、こんなことを掲げている政党もあるのかとあきれたが、ほかはどうなっているのか気になったので、ジャーナリストの加藤やすこさんに聞いてみた。
 いのち環境ネットワーク代表でもある加藤さんは電磁波や化学物質、低周波音の規制や対策について各政党に質問、ホームページ(URL・https://www.ehs-mcs-jp.com/各政党への公開質問状/)で回答を全文掲載。加藤さんはこう見る。
「自民党は科学的知見があれば対策を検討するというが、対応の先送りは健康被害を拡大するだけ。一方、社民党とれいわ新選組は予防原則に則った対応を明記。共産党は各項目で詳細な対策を示した。立憲民主党は学校での環境因子の削減や改善に配慮、風力発電のゾーニングとエコキュートの性能評価を検討、と2項目のみの回答。公明党と国民民主党は無回答だった。健康被害の急増が懸念される第5世代移動通信システム(5G)の見直しは急務で、自治体への働きかけも必要である」
 さて......。(吉田亮子)

▼「韓国人は情けない」。日本にある韓国企業に働く在日韓国人の知人によると、最近、一方的に誹謗中傷をしてくる電話が増えているという。日本が韓国への半導体材料の輸出規制強化に乗り出して以降、こうした電話がくるようになったようだ。「徴用工判決」で連日韓国バッシングが行なわれた時も、外で韓国語を話していると、突然近くにいる人から心無い言葉を投げられ、驚きと恐怖を感じたという。
 懸念するのは、メディアによる民族への嫌悪・差別感情の煽動だ。この間、特にテレビで、文在寅大統領を嘲笑する発言や、「これだから韓国という国は」などという感情的な発言をいくつも耳にした。ごく一部の韓国人による過激な抗議デモなども繰り返し放送されている。こうしたものの垂れ流しで、煽動は行なわれている。文大統領が、「日本は当初、徴用工訴訟の判決を理由にした」と発言したことについても、「勘違い」「思い込みがすぎる」などと報道されているが、安倍晋三首相が規制強化は徴用工判決の「対抗措置ではない」としつつも、「国と国との約束が守れない中において、こうした貿易管理においてはちゃんと守れないだろうと思うのは当然ではないか」とテレビで発言したことはまったく報じられていない。(渡部睦美)