週刊金曜日 編集後記

1237号

▼5月26日、ソウルにあるチャンビ(創批)カフェで童話作家・小説家のイヒョンさんにインタビューした。4月から本誌編集委員を務めるピアニストの崔善愛さんから、「高校生にも分かる朝鮮戦争特集をやりたい」というお話を受けたのは、その数週間ほど前だった。崔さんから、とても面白い本があるといって紹介されたのが、『1945,鉄原』と『あの夏のソウル』。朝鮮半島の解放から分断、そして戦争をテーマにしたヤングアダルト小説だ。どちらも影書房から邦訳本が出ている。「この作家にインタビューして特集に掲載できないだろうか」と崔さんから振られた。ちょうどソウルに出張の予定が入っていた私に白羽の矢が立った。本の内容やインタビューは本誌34~35ページに掲載されているのでぜひお読みいただきたい。
 今回の特集は鼎談あり、ルポあり、イラストあり、映画や本の紹介ありと、企画もバラエティーに富んでいる。どうしても固くなりがちな歴史物を、どうやったら読者に届けやすいものにできるか。今回は、崔善愛さんに全面協力いただいた。これまでとは違った切り口でお届けできたのではないかと思う。(文聖姫)

▼真実を口にするとほとんど全世界を凍らせるだろう──吉本隆明の詩(廃人の歌)の一節である。
 戦後を代表する思想家を金融庁に重ねるのは申し訳ないが、"老後2000万円不足"の審議会報告書に凍りついた安倍政権に、ついこの一節を連想してしまった。もちろん、政府が焦ったのは、それが「真実」だったからなのは言うまでもない。「2000万円」は平均試算にすぎないし、報告書自体は、資産運用を勧める金融業界への利益誘導丸出しとしても、だ。
 慌てた麻生太郎金融担当相の「政府のスタンスと異なる」という報告書受け取り拒否も、火消しどころか火に油。「月5万5千円」の赤字、「私的年金」の発信源は厚労省とバレたし、自民党は、参院選に向けた公約「令和元年政策BANK」で、「人生100年時代」への「対応」として、「私的年金の活用促進」と謳っているのだから、「政府のスタンス」そのもの!
 とは言うものの、預貯金のない庶民にとっては、資産形成なんて別世界の話。とりわけ、非正規率の多い就職氷河期世代などの人たちにとっては、日々の生活すら困難なのに老後どころではない。近づく参院選を前に、その怒りの声を伝えなければと思う。(山村清二)

▼「#KuToo 職場でのヒール・パンプスの強制をなくしたい!」のオンライン署名依頼がきたとき、すぐに署名したものの、いまだにパンプスを強制する職場があるという事実に愕然とした。出版社は服装自由が多いこともあり同業他社の知人たちもこの事実に「パンプスなど履いてこなかったから驚きだった」と口を揃えて言うし、某新聞記者からは「パンプス履いていったら逆になめてんのかと怒られた」と聞いた。だから働く女性の「正しい」履き物=パンプスじゃない。自分が好んで履くならいいが、なぜ規則で強制するのか。根本匠厚生労働相は「社会通念に照らして業務上必要かつ相当な範囲」であればいいと答弁したが、たとえば重い資料を持ってたくさん歩く営業職にも強いる合理的理由があるのか疑問だ。
 コルセットも纏足も、当時当地では「社会通念に照らして」「常識」だったが今は違う。女性のパンツ(ズボン)着用が禁じられた時代もあるが、今や女性のパンツ姿は日常光景。女性の参政権も、それを求めて投獄された時代もあるが、今では当然の権利だ。
「常識」は変わる。「社会通念」がおかしいのなら、そちらを変えなければならない。(宮本有紀)

▼「女性人権運動家 金福童さんを記憶する」希望のたね基金2周年記念シンポジウムが6月9日に開かれた。講演者の日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯代表の尹美香さんが金福童さんの生涯とそのメッセージを力強く語ってくれた。
 本誌6月14日号の「戦災調査からはずされ続けた沖縄」。空襲被害にあった市民への補償もまともにないこの国で、沖縄は戦災調査からも外され、基地の押しつけは今も続く。ここに見える日本政府の一貫した姿勢は正義を喪失した日本社会の有り様の反映であり、そこから差別や排除が生まれてくるのは必然だ。「正義の暴走」や「行き過ぎた平等」など不可思議な言葉の氾濫する日本で、日本軍「慰安婦」問題にかかわる人びとから正義という言葉が語られることには希望を感じる。
 シンポジウムでは宋神道さんの写真展企画「となりの宋さん」も紹介。東京・中野区のなかのZEROで7月14日から21日まで開かれ、ネットではクラウドファンディングで支援金を募っている。幅広い年代のメンバーが企画運営に参加しているというこの写真展でぜひ学びたいと思う。(原田成人)