週刊金曜日 編集後記

1236号

▼今週号の「写日記」で松元ヒロさんが書かれている「元号差し止め」訴訟の第2回口頭弁論の期日が決まったのでお知らせします。9月2日(月)の11時、東京地裁103号法廷です。
 5月24日号の「金曜日から」で第1回口頭弁論は(地裁522号法廷)傍聴席数を100と書いてしまいました。実際は45席でした。お詫びします。ですが、30人以上が傍聴席後方に立っている(普段はない光景です)法廷に入ってきたときの裁判官の表情はなかなか見ものでした。
 80人を超える方々の結集があり、山根二郎弁護士、矢崎泰久氏、北原賢一氏がどれだけ心強かったか。それは山根弁護士の裁判長に対する強い要求にも表れていたと思います。本誌をお持ちの方も見受けられました。ありがとうございます。
 閉廷後、隣の弁護士会館1階ロビーで急遽行なわれた「報告集会」は3重にも人の輪ができ、その真ん中で山根弁護士は30分以上にわたり裁判への思いを語られた。昼時でもあり、立ち止まるひとも多く警備員が出てくる始末。
 司法はこの裁判の争点をあやふやにし、早期結審を狙っているようにしか見えません。次回の103号法廷の傍聴席は今回の倍以上です。空席にするわけにはいきません。どうかさらなる参集をお願いいたします。(土井伸一郎)

▼今年度から中学校でも「道徳」が教科化された。中学校の「道徳」教科書を出版しているのは8社で、これらすべてに載っている物語に「二通の手紙」というものがある。
 概要はこうだ。ある動物園で定年退職後も臨時で働いていた元さん。ある日、入園時間がすぎて門を閉めようとしていると、いつも門の柵から園内を覗いている小学3年生くらいの女の子と弟がやってきた。この日は女の子が入園料を握りしめていて、弟の誕生日だから入れてほしいと懇願してきた。入園時間がすぎているし、小学生以下の子どもは保護者同伴が規則だったが、2人の気持ちを汲んだ元さんは、早く戻るように言って特別に中に入れた。ところが閉門時間に2人は戻ってこず、園内職員をあげて一斉に探す事態に。結局、日暮れ間近に2人は無事見つかり、後日、母親から謝罪とお礼の手紙が元さんに届いた。ただ、事務所からは解雇通知の入った手紙が渡された。元さんは「この二通の手紙のおかげでまた新たな出発ができそうです」と晴れ晴れとした顔で職場を去っていった──。
 不可解なのは、この物語が「法や決まりの意義」の項目であることだ。解雇処分が適当か甚だ疑問であるにもかかわらず、元さんは「晴れ晴れと」受け入れていて、法や決まりを守る「正しさ」がことさら強調されているように感じる。「道徳教科化」の中身をよくよく見ていく必要がある。(渡部睦美)

▼週末、川崎市登戸で発生した通り魔殺傷事件の現場に花を手向けに行った。事件発生から10日以上経過しているにもかかわらず、静かに祈りを捧げる人が何人もいた。この日は秋葉原通り魔事件から11年にあたることを帰宅して知る。空に向かって、亡くなられた方々のご冥福をお祈りした。
 今回の事件後「8050問題」が以前にも増して注目されている。80代の親が50代の中高年の引きこもりの子の生活を支えるという状態の親子が社会的に孤立し、生活が立ち行かなくなるといった深刻なケースに対して「多様な支援」が国や社会に求められている。
「老後2000万円貯蓄問題」については麻生太郎氏が閣議後会見で「(年金だけでは)あたかも赤字ではないかと表現したのは不適切だった」と述べた。少子高齢化社会を迎えたニッポンの隠しきれない歪みが、様々なカタチで浮上している。この国は緩やかに「衰退」していくのだろうか。未来の人々に(それは「令和」なのか「東京オリンピック」なのかわからないが)「あの時」が大きな節目だったと言われるのかもしれない。
 今年亡くなった橋本治さんは、福沢諭吉の『学問のすゝめ』(幻冬舎)の新感覚の解説本を著している。『学問のすゝめ』は、相変わらず私達の前にあって、「蒙じゃいけねェな」ということを言い続けている。政府は「国民の代理」なのだ、とあらためて思う。(本田政昭)