週刊金曜日 編集後記

1232号

▼改憲が迫ったこの期に及んでもうないと思うが、以前公安警察の記事を掲載すると、よく弾圧された側について「あれは○○派ではないか」などと、取り上げること自体に「苦情」を言われるような経験を何度かした。だが、最大の問題は公安の人権侵害と違法行為なのであって、被逮捕者の政治的立場は無関係だと考えている。多くの弾圧は、まず一般に政治的少数派や戦前で言えば「主義者」、今風には「過激派」などとレッテルを張られた「社会的非認知団体」から対象となり、そうしたやり方が繰り返された後、いつの日か「自分に」手が回ってくる。だからこそ、それが誰であろうが権力によって不当な仕打ちを受けた側に対しては、可能な限り幅広い支援と連帯が求められる。誤解してはいけない。相手は、戦後も生き残った大日本帝国の特高警察を少しだけ手直ししただけの連中だ。最初から市民的諸権利の尊重意識も、人権感覚も期待するのは愚かだろう。共謀罪制定時のデタラメ答弁が記憶に新しい法相の金田勝年が、国会で「治安維持法違反の罪にかかる刑の執行も......適法に行われた」などと放言したのは、警察・治安官僚の本音を代弁させられたのに等しい。戦前の反省など毛頭ないから、公安は拷問以外特高と同じことを繰り返すことが許されている。この組織を解体しない限り、永久に「戦後民主主義」など訪れはしない。(成澤宗男)

▼「原発『推進』か『ゼロ』か。いずれを主張する候補者が今後の青森県政を担うのか、ぜひ注目してほしい」と、大阪・浄土宗の正明寺住職、森俊英さんから連絡があった。森さんは宗教者として何をすべきかを模索・発信し、平和活動団体「ピースプラットホーム」事務局長として活動している。  そんななかで出会ったのが、6月2日に行なわれる青森県知事選挙の候補者、佐原若子さん(無所属)だ。チェルノブイリ原発事故などをきっかけに反原発活動をはじめたという歯科医で、新人。今回は現職の三村申吾さん(無所属)との一騎打ちで、ポイントは冒頭のように原子力政策での違い。
「大間で原発が稼働すれば使用済み核燃料棒(MOX)が生み出され、処理に悩むことになる。六ヶ所村で再処理工場が稼働すれば、核廃棄物の容量はさらに増える。原子力政策にかかわる人々も、未来に生じる取り返しのつかない現実を認識している。私たちはこの問題を傍観し続けるのか」
 こう訴えている森さん自身、実際に現地に足を運んでいる。「青森にきて、六ヶ所村にきて、現実を知ってほしい」とも。原子力施設のほとんどは大都市から遠く離れた場所にある。いわば隠されている。その実態を知るには、現地で問題を担っている人たちと、まずは「出会うこと」、なのかもしれない。(吉田亮子)

▼大型連休を利用して山登りに行った。JR奥多摩駅(東京都奥多摩町)から歩いて登山口へ入り、雲取山に至る「石尾根縦走路」をゆく。その西には甲武信ヶ岳や金峰山などが連なる「奥秩父主脈縦走路」が続く。すべて踏破すれば総延長は80キロメートル以上にもおよぶが、それを達成できる経験も脚力もない。というわけで、今回は雲取山の西の飛龍山(標高2077メートル)をへて三条の湯に下る2泊3日の行程を歩いた。
 1日目は道標を見誤ってコースアウトしたり、キャラメルを噛んで奥歯の詰め物が外れたりとアクシデントに遭遇。「これで完歩できるんかいな......」と弱気になったが、山小屋でしっかり休息したら翌日は体力気力ともに回復。天候にも恵まれ無事歩き切った。
 ところで今回、奥多摩を訪れて目にとまったものがある。一つは先日改装された奥多摩駅舎。内装に地元産の木材を使った待合室は木の香が心地よい。JR東日本が青梅線の青梅~奥多摩間を「東京アドベンチャーライン」と銘打ち、観光誘致を図っているのだ。
 もう一つは、登山口手前の民家に貼られた山本太郎の政党ポスター。新緑したたる風景に、ポスターの図柄と「本当のこと言って何か不都合でも?」とのキャッチフレーズが鮮烈だ。移住者が人口の約1割に上る奥多摩町で、保守政党が強い土地柄に新風が吹いているのかもしれない。(斉藤円華)