週刊金曜日 編集後記

1192号

▼「愛国心とは、悪党の最後の拠り所である」(サミュエル・ジョンソン)という、よく知られた格言がある。しかしこの国では「愛国者とは、売国奴の変名である」という格言があってもいい。「売国奴」などという用語は右翼じみて抵抗感があるが、あえてこの際、安倍晋三と中曽根康弘に進呈しよう。米国にあれほどまでに媚びの限りを尽くし、あるいは尽くしたこの両名だ。恐れ多くもありがたき米国、元い米国様に下賜されたのが「マック憲法」だと今でも信じているならなおのこと、「改憲」ではなく護持し奉るのが人の道だと観念しないでどうする。特に安倍は自身が懇意にしていた『読売』常連の故・岡崎久彦のように、「アングロサクソンに付いていけば間違いない」と思うからあそこまでトランプの口真似に恥も外聞もなく必死なのだとお見受けするが、ならば「アングロサクソン」の作った憲法の精神に「付いていけば間違いない」と思ってもよさそうだ。そう思わないのは、衆知の頭の回転の鈍さ故か。(成澤宗男)

▼ご挨拶が遅れましたが、5月より「投書」欄を担当しています。読者のみなさんから寄せられる投書や論争の原稿、イラストや川柳が届くのを毎日楽しみにしています。話題も多岐にわたり、また見識の高さや論評の鋭さに驚かされます。
 本誌記事への感想も寄せられます。お褒めの言葉もありますが、時には厳しい批判も。そういったひとつひとつの投稿を読みながら、「投書」欄は読者と『週刊金曜日』をつなぐ貴重な"橋"の役割を果たしていると感じます。
 本誌では今月から投書欄を1ページ増やし3ページとしました。読者のみなさんの声を一本でも多く掲載するためです。「投書欄がにぎやかになってきましたね」。ある読者の方から電話でこんな声をいただきました。たいへん励みになります。
 月に1回テーマを決めた投稿も募っています。8月のテーマは「戦争について考える」。詳しくは「投書」欄に書きました。多くの方の投稿をお待ちしてます。(文聖姫)

▼本誌6月8日号(1187号)で、浸透性農薬ネオニコチノイドに関する記事を書いた。石川県内のコメ生産者が、斑点米(着色粒)被害をもたらすカメムシが地域でほとんど生息しないことを知り、同農薬を使わないコメ栽培で成果を挙げている、という趣旨だ。
 記事を読んだという地方議員からは「取り組みを詳しく知りたい」と反響があった。ちなみに斑点米は出荷前に「色彩選別機」で選別できるが、そもそも斑点米は無害でコメの食味にも影響しない。
 つまり、1等米で1000粒に1粒しか斑点米の混入を認めない国の検査基準は、単に「見た目を良くする」のが目的だ。そのため農家はカメムシ防除に大きな負担を強いられる。しかもネオニコチノイドは、ミツバチ大量死との関連が強く疑われる神経毒だ。
 環境NGOグリーンピース・ジャパンほか7団体は先月、農林水産省にネオニコチノイドの使用禁止、およびコメの着色粒規程の見直しを求める1万4630筆の署名を届けている。(斉藤円華)

▼太宰治没後70年の先月刊行された『太宰よ! 45人の追悼文集』(河出書房新社)を読み、「生れてすみません」という句が無断引用だったと知った。無名詩人の言葉を人づてに聞き、本人が発表する前に使ってしまったらしい。本人は「生命を盗られた」と憤慨した。
 この本の冒頭に弔辞を書いている井伏鱒二も、原爆被害を描いた『黒い雨』で盗用が問題になり、本誌1995年12月15日号でも取り上げた。東日本大震災を描いて最新の芥川賞候補になった「美しい顔」も、参考文献が明記されていないと騒ぎになっている。
 盗用は決して許されることではない。が、どれも原文が心に響いたからこそ使ってしまったのだろう。「生れて......」は太宰の波乱の人生と合わさって共感され、井伏の盗用は被爆の惨状を広く伝えた。
 心とのつながりでいえば、モリカケを巡る安倍氏の釈明ほど空疎な言葉を最近聞いたことがない。「行政府の長」としてではなく、安倍個人の、心に響くような言葉をぜひ聞かせてほしい。(神原由美)