週刊金曜日 編集後記

1168号

▼鎌田慧さんと保阪正康さんの対談を掲載しました。保阪さんの弊誌登場ははじめてです。対談前の雑談で、私の祖父が出征していた中国の地名を話すと、保阪さんはどういう部隊だったか即答されました。延べ4000人に聞き書き調査をされてきた、その蓄積に頭が下がりました。保阪さんは著書で次のようにも指摘しています。
〈左派の人たちは、「そもそも軍国主義なんてそんなものなんですよ」と詳細の把握もせずに大雑把に言ってしまう。(略)昭和の軍国主義を批判したいのであれば、むしろもっとその歴史の中に分け入って、軍事というのはいかにあるべきかというのを根本から徹底的に考え抜いてそのうえでたどり着く結論でなければ、批判どころか議論にもなりませんよね〉(『昭和維新史との対話』鈴木邦男さんとの対談、現代書館)
 安倍政権批判のためにも昭和史を再勉強する必要性を感じています。まずは、『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』(中公文庫)を読みはじめました。(伊田浩之)

▼誰かは待っていてくれたかもしれない、映画ベストファイブの季節がやってまいりました。
『スター・ウォーズ』や『ブレードランナー2049』など、話題作が目白押しだった昨年、邦画も元気を取り戻している。
 映画を観る人間の増加と、暗い時代への傾斜は比例すると言われているけど、いわゆる娯楽作から目を転ずると、その足音は確実に感じます。
 今年の5本は『幸せなひとりぼっち』『ザ・コンサルタント』『スノーデン』『標的の島 風かたか』『わたしは、ダニエル・ブレイク』。 駅の構内放送もそうだが、映画上映前の「くどくどご注意」もいい加減にしてほしい。そんなの各自の常識が支えればいいのだ。
 映画館によっては、飲料の持込みもやめてほしい、その館の売店で買ってという露骨な所もある。問題起こさず、ここでお金落として、静かに観てねってことらしい。電車の「ここは7人で座わるように」シートと同じ、我々のモラルの去勢でしかない。(土井伸一郎)

▼今年3月介護療養病床が廃止されます。医療保険と介護保険も適用されるので介護保険支出抑制のため、介護老人保健施設(老健)等に移すのが目的と言われます。
 老健は、リハビリを必要とする要介護1以上の高齢者の施設です。在宅復帰を目的とする中間施設で3カ月の短期入所が基本です。特別養護老人ホーム(特養)は、2014年待機者が52万人以上となり、そのため要介護1から3に入所資格が引き上げられました。待機者は約37万人です。
 要介護1や2の高齢者は特養入所の資格が得られるまで、3以上の待機者も、老健に入って待つ場合が多いのです。短期間が基本のため何年も施設間を漂流します。
 待機者がいるのに、空きのある施設もあります。原因の一つは、賃金が低く厳しい労働環境のため、職員の確保が困難なことです。
 必要不可欠なケアの仕事ですが、女性が家庭内で行なってきた「無償労働」の仕事だとの認識で、他の「仕事=有償労働」と格差がつけられるのです。(樋口惠)

▼今年は『週刊金曜日』創刊25周年です。購読予約者を募り、それが一定数確保できたならば創刊に踏み切るという、クラウドファンディングの先駆けのようなかたちで誕生してから四半世紀が経ちます。一方この間、多くの雑誌が創刊され、そして役目を終えてきました。小規模出版社が週刊誌を創刊し、ここまで長きにわたり発行を継続できていることは奇跡と言っても過言ではありません。その奇跡はいくつかの幸運の積み重ねです。週刊誌としての類誌が無かったこと、連載をまとめた単行本(『買ってはいけない』『トヨタの正体』等)がベストセラーになったこと。そして何よりも創刊当初より今日まで、定期購読者の熱い思いに支えられ続けていることです。昨年11月からの「読者拡大キャンペーン」では多くの読者のみなさまから約900名の方をご紹介いただき、160名の方が購読を開始されています(1月12日現在)。日々読者の輪を広げてくださっていることに心より感謝申し上げます。(町田明穂)