週刊金曜日 編集後記

1151号

▼2002年9月の日朝国交正常化交渉の開催などに関する「日朝平壌宣言」には、次の文言があります。
〈朝鮮半島の核問題の包括的な解決のため、関連するすべての国際的合意を遵守することを確認した。また、双方は、核問題及びミサイル問題を含む安全保障上の諸問題に関し、関係諸国間の対話を促進し、問題解決を図ることの必要性を確認した。/朝鮮民主主義人民共和国側は、この宣言の精神に従い、ミサイル発射のモラトリアムを2003年以降も更に延長していく意向を表明した。〉
 日朝平壌宣言に基づき交渉を進めれば、現状とは別の可能性があったのです。日本人「拉致」問題はもちろん重要です。ただ安倍晋三氏が主導する「圧力」では被害者救済の道筋が見えないのが現状ではないでしょうか。「拉致」問題と核・ミサイル問題という困難な連立方程式を解く外交努力が求められています。(伊田浩之)

▼人工知能(AI)を使ったチャットボットが、人種差別的だと停止されたことがあります。こうした「暴走」は、AIが中立で正しいかを考えさせます。
 日常的な言語を処理するプログラムでAIを学習させる場合、ネット上の膨大な言葉をデータとして使います。言葉を使う人間の偏見や差別がそのまま取り込まれることが、明らかにされています。
 就職の採用判定、刑事裁判の判決を左右する累犯予測、犯罪発生の予測等、今後広範囲にAIが利用されます。生活・人生に影響を与えるAIの判定に、公正と透明性が期待できるでしょうか。
 米国・ウォール街の元データアナリスト、キャシー・オニール氏は、AIの一つである機械学習のプログラムの数学的モデルが偏見と差別を前提としているため、結果も偏見と差別を反映することを具体的な例を挙げて示します。『数学破壊兵器』(未邦訳)だと言うのです。(樋口惠)

▼本と音楽とコーヒー、ラーメンとカレーと居酒屋、といった街場的な話に目がない。会社の近くの珈琲屋で偶然目にした『POPEYE』9月号「君の街から、本屋が消えたら大変だ!」、『CREA』9月号(女性誌です)「100人の本と音楽とコーヒー。」は、僕的には"どストレート"な企画で、ついつい読んでしまった。
 しかし、である。個性的な店が増えてきていることは面白いことなのだが、街から普通の本屋が減り続けている現実を知ると、できるだけ、近所の本屋で本を買って「買い支え」たいと思う。かつて本屋があった場所の前を通ると切ない。「そこは本来、本屋があるべき場所なのだ」。文化的インフラの消失、それは街を蝕む。
 だからこそ街には喫茶店や酒場が必要だし、街に生きる人々が各自で好きな店を飲み支えることがささやかだがその街のチカラとなる。本誌も定期購読者に「買い支え」られ、生かされていることを今、肝に銘じている。(本田政昭)

▼つらいお知らせです。主に視覚障がい者や高齢者にご利用をいただいているデイジー図書、音訳版『週刊金曜日』が9月29日(1154)号で休刊します。音訳版の制作は「テープ版読者会」のボランティア活動によって支えられていますが、その代表を務める舛田妙子さんが体調を崩し、このたび治療に専念することになりました。
 毎週の音訳作業は時間との闘いです。『金曜日』の刷りあがる水曜日、「音訳者」への誌面データの配信から始まります。舛田さんと事務局長の矢部信博さんが本誌を読み込みPDF化、個別に体裁を整えて20人以上へのメール送信が終わる頃、日付は変わっています。そして「音訳者」が読み上げた音声データの校正、編集、発送作業等々、一連の作業が終わると土曜日の夜。舛田さんはこの生活を10年以上続けてこられました。ただ彼女がいなくては、この活動を続けられないのです。ご回復を心より祈っています。(町田明穂)