週刊金曜日 編集後記

1145号

▼ダウンタウンのファンだ。その笑いは、私の血肉となっている。ほぼ同い歳。彼らが『4時ですよーだ』を始めた頃、関西にいた私はそれ以前の何物とも似ていない感性に衝撃を受けた。それだけに、今回の特集の田中文夫さんの手紙にはぐっときた。ほんと、がっかりさせんなよ松ちゃん、なのだ。
 いま、テレビをつければどこもかしこもお笑い芸人ばかり。しかも、よせばいいのにドヤ顔で政治を語る。適菜収さんが指摘する通り、「思考の材料ではなく、思考停止の材料を提供するのがワイドショー」という惨状。影響力の点でも筆頭が、松本人志だ。共謀罪廃止への意識を持続するためにも、徹底した批判は当然だろう。
 お薦めを一つ。韓国の国民的詩人、尹東柱を映画化した『空と風と星の詩人』(7月22日公開)。日本に留学中、「友人と独立運動について語り合った」として治安維持法違反の罪に問われ27歳で獄死。無念が痛切に響く。松ちゃんにも見てほしい。(小長光哲郎)

▼日々、言葉ばかり扱っていると有言不実行の夢想家になりがちだ。料理や家庭菜園もしてきたが、そこでより白黒がはっきりするデジタルな電子工作を最近始めた。勢いでミシンを使いこなそうと触りだした。そう、私の今年のテーマはDIY、DO IT YOURSELF(自分自身でやってみる)なのである。しかし日本で「DIY」と言うと「日曜大工やってんですか」とホームセンター的世界に埋没させられる。これは残念かつもったいない話だ。DIYの精神は自分でブラックボックスを分解し、仕組みを理解し、修理や改善することだと広く考えているからだ。米国のiFixitという企業は「世界を修理する」を理念に掲げ、環境と経済に配慮する世界的な修理ビジネスを展開している。「日本を修理する」DIYの精神としてそれを敷衍してみよう。情報非公開、投票と政治家使い捨てで終わる民主政治も修理しなければならないはずだ。(平井康嗣)

▼七夕の頃には、短冊が鈴なりになった笹をあちこちで見かけた。風にゆれる色とりどりの願いごとを読むのがこの時期の楽しみだ。
「けんかのない平和なクラスになりますように」とほほえましいもの、「〇〇大学に受かりますように」「病気が治りますように」と絵馬みたいなもの、「戦争法、共謀罪廃案 安倍政治打倒!」とスローガン風のもの、とさまざま。
 一番印象に残ったのが「書けるような願いは願いではない」という短冊。周囲の願いを全否定するような言葉がかえって潔く、思わず見入った。表明できる程度の願いは大したことがない、心の奥底で強く念じるものこそが本当の願い、ということか。
 そういう一面もあるかもしれない。ただ「書けるけど書かない」ならいいが、「本心は書けない」社会になるのは嫌だ。
 短冊代わりに本欄に書こう。「安倍政治打倒!」と権力批判を表明しても絶対に投獄されない社会であり続けますように。(宮本有紀)

▼日中全面戦争開始から80年を迎えた今年、憲法改悪の気配はかつてないほどに高まっている。中国を侵略しながら「人道的」「文明的」という自己イメージを肥大化させ「暴戻支那を膺懲す」と放言した80年前の雰囲気と、軍事国家アメリカと同盟し、その前線基地を沖縄に集中させながら、朝鮮や中国の脅威を叫ぶ今の雰囲気。そうした雰囲気作りに一役買うのがメディアだ。中国の非道を鳴らし、大陸での戦果を誇って戦争を煽った当時の新聞。軍からの紙の特別配給で「文明的」書籍を前線に送った出版業界。現在は、新聞や出版社が歴史修正主義やヘイト本をまき散らす。憲法改悪が迫る現状を見るに、これまでの80年を考えざるを得ない。
 24日の午後6時半から、東京・早稲田奉仕園スコットホールにて先日刊行した『検証 産経新聞報道』の緊急集会を行ないます。予約は不要です。(原田成人)