週刊金曜日 編集後記

1135号

▼5月3日に安倍晋三首相は自民党総裁の立場で改憲派の集会にビデオメッセージを寄せたが、同日の『読売新聞』に単独インタビューを掲載させている。そこでは、憲法9条について「例えば、1項、2項をそのまま残し、その上で自衛隊の記述を書き加える」、(自民党の)「改正草案にこだわるべきではない」とし、2020年を「『新しい憲法』が施行される年にしたい」と発言している。
 この首相の改憲構想は、国防軍を明記した自民党改憲草案から大幅にトーンダウンした「護憲的改憲論」と言える代物であり、これで改憲論議は大きく転換した。ともかく2020年までに一度、憲法を改正するために公明党や日本維新の会も合意しうる内容にしたのだ。一方、リベラル派の中にも現状追認型の護憲的改憲論者が増えつつある。安倍首相とは内容は異なるかもしれないが、このままいけば搦め捕られかねない。9条と自衛隊について精密な論理が早急に必要である。(平井康嗣)

▼フランスにしろ韓国にしろ、大統領選が盛り上がり、世界も注目するのは、公選制だからではないか。反対する人は多いけれど、日本も首相公選制導入について議論してもいいのではないだろうか――なんてことをつらつら感じた。第1党党首が自動的に首相になるシステムに、いったい何の緊張感が生まれるというのであろうか。その慢心が、憲法改正をはじめとする、軽々しい発言が飛び出す原因となっているのではないか。
 ところで4月から、「くらしの泉」コーナーでは、鈴木大介さんの「脳梗塞サバイバーが考える患者支援ガイド」を連載しております。鈴木さんといえば、『最貧困女子』(幻冬舎新書)などで若者の貧困を可視化した書き手として定評のある方。ですが、2015年に脳梗塞を発症し、高次脳機能障害という後遺症に苦しみます。脳梗塞"後"の患者支援のあり方を、体験者ならではの視点で考えます。ぜひご一読を。(渡辺妙子)

▼4月7日号特集「テレビ報道の危機」の後、"ニュース一新"したはずのNHKの報道番組を見ているが、案の定、まったく物足りない。そんな同局から「厳重に抗議する」旨の配達証明が編集部に届いた。「籠池泰典氏の証人喚問が危うく中継見送りに」は事実無根、岩田明子記者の会長賞受賞に「政治的インパクトなし」は事実と異なる、等々。こちらとしては、複数からの十分な取材に基づいている、としか言いようがない。
 一点、説明しておきたいのが「さらに問題なのは、『天皇陛下、生前退位の意向』のスクープが会長賞に入っていないこと」という箇所。NHKから「(この記事は)すでに昨年の会長賞を受賞しています」と指摘があった。たしかにそうなのだが、小誌の記事はNHKの放送記念日で表彰される会長賞に含まれていなかったことを問題視したもの。社外的に栄誉ある新聞協会賞も受賞したこの記事ではなく、岩田記者であったことに「違和感を覚えた」という証言は複数得ています。(小長光哲郎)

▼金曜日の出版物を現在、最大に販売している書店はネット書店のアマゾンです。そしてこの実態は当社に限ったことではありません。そんなお得意様から「重要なお知らせ」で始まるタイトルの長文メールが着信したのはGW直前の金曜日。「7月より取次店の倉庫に無い既刊本の発注を取りやめる」という通告に併せ、「アマゾンとの直接取引」を促す内容です。多くの出版社は取次店を通じて納品をしていますが、納品までの日数に時間がかかり過ぎるという理由で、これまでも各出版社に直接取引の開始を働きかけてきました。ただ、小規模出版社が取次倉庫に既刊本を多数揃えることは現実的に無理な話。一方、同社との直接取引はマージンの低さに加え、配送の手間と費用の負担が増え、これも高いハードルです。加えて何よりも、こんな「ムチャぶり」をするアマゾン一強状態をこれ以上推し進めて良いのかという思いがあります。字数が限られていますので、続きをまた次の機会に。(町田明穂)