週刊金曜日 編集後記

1132号

▼これが、まともな国での出来事か。国鉄時代、悪質極まる不当労働行為の張本人だった葛西敬之が、「財界人」気取りで今や安倍晋三の「ブレーン」だと。以前『文藝春秋』の「日本の顔」欄にも登場し、「国鉄改革を成功させた」という類いの枕詞が冠せられている。この国では労働法の重大違法行為は、かくも大目に見られるのか。近年、「改革」などという用語はろくな使い方がされていないが、人権侵害よりも「改革」の方に重きが置かれるということか。国鉄解体前、政治屋に「政治資金」という名の賄賂を配るのを生業の一つとし、オイルショック時の「買い占め」など数々の反社会的行為に手を染めた財界の頭目・土光敏夫がなぜか「政治嫌い」だとされ、「行政改革」の救世主扱いされてからこの国の"狂い"は酷くなった。今週の特集を、こうした権力と癒着して権勢をふるった輩どもに屈しなかった、すべての人々に捧げる。(成澤宗男)

▼小学1年生の道徳の教科書に、「伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度」が足りないと検定意見がつき登場するパン屋が和菓子屋に差し替えられた結果、検定を通った話が物議を醸している。
 こうした政府の姿勢に、パンには日本での伝統がある、とか他国の文化を取り入れる良さが日本らしさ、などと反論するむきもある。一見すると多様性の尊重にも見えるが、こうした反応は同化の賛美が基調になっている。日本らしさを競うなど、教科書を検定する文科省と変わりがない。
 3月25日に入国管理局の牛久収容所でベトナム人男性が亡くなった。同ブロックの被収容者からの告発の手紙には、亡くなる数日前から体の痛みを叫びながら訴えていたにもかかわらず、職員に放置された経緯が綴られている。法務省の職員をはじめとしたわれわれ日本人に必要なのは道徳教育などではなく人権教育だ。(原田成人)

▼電車で最近、気になる風景。赤ちゃんを抱いて座る親がスマホに熱中している。赤ちゃんの頭とスマホの距離、3センチ。ああ、電磁波の害、知らないんだなあと思う。赤ちゃんが可哀想すぎてみぞみぞしてくる。声をかけようかとも思うが、んなことしても怪しいおっさんでしかないので諦める。
 もう一つ。隣に座ると、やおらハンドクリームを塗り始める女性。これ、本当に多い。なぜか大抵、乗って座ってすぐのタイミング。せっせと拝むように両手を擦り合わせる。「蠅かっ」と心の中で突っ込む。なんでまた、電車の中で、なのか? さらに嫌なのは匂い。本人はご機嫌だろうが、なぜ周囲の人が、嗅がされなきゃいけないのか。理不尽な被害だ──。
 そんな疑問にも答えてくれそうな本が、出たらしいじゃないか。おっ、自分の会社からか。嬉しい。タイトルは......。(小長光哲郎)

▼『香害 そのニオイから身を守るには』(岡田幹治著、1400円+税)が完成しました。昨年、ニオイ付き柔軟剤などでの被害を本誌で取り上げたところ、問い合わせを多数いただき、単行本化を準備してきたものです。あらたなニオイ付き商品や化学物質による影響、対策などを加えています。
 私自身、小児ぜんそく→小学校高学年以降はアトピー性皮膚炎。このように成長とともに症状が変化することを「アレルギー・マーチ」と呼ぶと、この本ではじめて知りました。ほかにも知らない・知らされていないことって多いのだなと実感しています。書店には14日(金)から並ぶ予定です。
 2月3日号で紹介した映画『ゴンドラ』が15日(土)から、都内での公開第4弾としてアップリンク渋谷で上映されます。そのほか各地でも上映予定ですので、くわしくはホームページを(URL・http://gondola-movie.com)。(吉田亮子)