週刊金曜日 編集後記

1118号

▼特集を組むにあたって参考になった書籍をいくつか紹介しよう。ごく一部だけど。『日本のドキュメンタリー』(佐藤忠男編著、全5巻、岩波書店、2009~10年)は、体系的で素晴らしい。詳細な年表と約2000点のテーマ別作品データベースを収録した5巻「資料編」のていねいな仕事には頭が下がる。岩波書店では『日本映画は生きている』全8巻のなかの第7巻『踏み越えるドキュメンタリー』(10年)も興味深く読んだ。小誌執筆者でもある佐々木誠監督に勧められた『21世紀を生きのびるためのドキュメンタリー映画カタログ』(寺岡裕治編、キネマ旬報社、16年)は、最新事情がよくわかる。『あきらめない映画 山形国際ドキュメンタリー映画祭の日々』(山之内悦子著、大月書店、13年)もお勧め。紙幅の都合上、映画祭はじめ盛り込めなかった要素も多い。読者の皆さまのご希望があれば、ドキュメンタリー映画をまたちがった切り口で取り上げたい。(伊田浩之)

▼ペンとアッポーがくっつく、PPAPの動画はハマる。「金持ちになろう」と「人を助けよう」がくっつくと、不気味。
 ビル・ゲイツの巨大な顔写真を背景に、インドの大勢の子どもたちが、尊敬するビルおじさんの60歳の誕生日を祝った去年の写真。彼の顔写真の下に、「金持ちになろう」「人を助けよう」と大きな文字で並ぶ。
 4兆円で3300万人の子どもを救ってきた、メリンダ&ビル・ゲイツ夫妻。ほかの事業にも寄付をする。アルンダティ・ロイは述べる。マイクロソフトで得た、いかがわしい儲けの内の僅かな割合でも何兆円にもなる。政府の政策を買い、NGOを支援して活動家も雇える。世界に自分の言うことをきかせることさえできる。たとえ彼らが「善意」であったとしても、それはよいことなのか。支援するとは、支配することである。
 抵抗する人々を抱き込み、止めさせることも、支援によって可能になる。一つの戦争だ。(樋口惠)

▼「海を見ても(美しさとか楽しさとか)わからない」「頭の手術をしたら治るの?」。そう問いかける胎児性水俣病患者の加賀田清子さんと、問われて言葉に詰まる原田正純医師。背後の熊本・不知火の海が2人を優しく包み込む――映画『不知火海』の忘れ難い1シーンだ。監督の土本典昭氏は、著書『映画は生きものの仕事である』の中で「(映画を通して)患者さんの世界が光っている」と語った。2人の間に交わされる会話は確かに水俣病の深刻さを伝えるが、フィルムの中で、清子さんも原田医師も間違いなく光り輝いていた。
 いま、映像アクティビストを志向するひとが多いと聞く。土本氏と同じく水俣病を追った『阿賀に生きる』の佐藤真監督は、「ドキュメンタリーはフィクション」と言い切ったし、石牟礼道子さんの『苦海浄土』がノンフィクションかフィクションかという問いを無効にするように、優れた作品はジャンルを超える。光っている映画にこれからも会いたい。(山村清二)

▼神保町の有名書店だった岩波ブックセンターが閉店してもうすぐ一月。人文書の頼れるお店として本を探すときは必ず立ち寄るお店だった。また毎週『週刊金曜日』をカウンターに置いて販売してくださる、本誌にとってもかけがえのないお店でもあった。10月に急逝された同店の運営会社信山社会長の柴田信さんは神保町ブックフェスティバルの運営に長年携わってこられた。今年初めて弊社も参加することになったこの催し、私の確認不足で、遅れての申し込みになってしまい、申込窓口である岩波ブックセンターに何度か足を運んだが、タイミングが悪くなかなかお目にかかれなかった。最後に柴田さんから直接お電話があり、快諾いただいたのが亡くなる一月ほど前。それが最後のやりとりになってしまった。
 同店で最後に買った本は『口笛を吹きながら本を売る 柴田信、最終授業』(石橋毅史著、晶文社、 2015年)。年末じっくり読もうと思う。(原田成人)