週刊金曜日 編集後記

1109号

▼かつて稲田朋美防衛大臣は、「国を護るには血を流さなければいけない」と述べた。たかが国会で追及されたぐらいで半ベソ状態になった程度の大臣が、有事か何かの折りに自ら「血を流」すような行動を取れるとも思えないが、安倍晋三首相も「軍事同盟というのは血の同盟」だと言う。首相は若い時分に米国に「留学」した際、寂しさのあまり家族に毎日のように国際電話をかけ、多額の請求書を見た父が怒ったとの逸話があるが、軽々しく「血」がどうのこうのと扇動めいたことを口にする政治家に限って、薄っぺらの小心者である点で共通している。こんな連中によって、身に危険が及ぶのを承知でアフリカあたりに送られる自衛隊員は哀れだ。自身はどう贔屓目に見ても「血」を流しはしなさそうなのに、他者が死傷する事態を偉そうに吹聴するのは無責任で卑劣ではないのか。(成澤宗男)

▼今年のノーベル医学・生理学賞に選ばれた大隅良典氏の妻、大隅萬里子氏も研究者であり、記者会見で若い女性研究者への言葉を乞われ「私は若気の至りで早めに結婚してしまったが、勉強できる時期というのはある。そこできちんと勉強していればその後の人生がかなり違ったと思うが、私はそこで勉強を放棄してしまったので、チャンスがあれば若い女性の方にはきちんと仕事をして、そしてできればご自分の幸せも実らせていただきたい」旨の発言をされた。
 日本でノーベル賞を受賞する科学者は男性ばかり。「よい家庭人ではなかった」「家事育児は妻に任せきり」で、「妻の支えがあってこその受賞」という美談風に報道されるのが恒例だ。大隅萬里子氏の発言は、女性に家事出産育児負担がのしかかり研究者として不利になる問題を示唆する。この男女不平等をなくせたなら、それこそノーベル賞ものだと思う。(宮本有紀)

▼沖縄。「油喰小僧」を名乗る人物が9月20日ツイッターでこう発信した。〈辺野古のテントの事も〉〈高江のレッカーも、検問も〉〈長尾たかしさんが全部現地に足を運んで、官邸や警察官僚に掛け合って、沖縄を良い方向に引っ張ってくれたんです〉。自民党の長尾敬衆院議員は10月1日に〈ご支援、ありがとうございます。感謝!〉と返答。一方で「油喰小僧」には〈島袋文子が暴力振るうのは日常的(中略)暴力常習ババア〉といった語録もある。島袋文子さん(87歳)は沖縄戦を体験した。基地建設阻止のため辺野古や高江で座り込みを続けるが、不可解な「暴行容疑」で10月21日、名護署は任意の取調を行なう。17日は辺野古・高江での調整役、山城博治さんが"逮捕"された。「米軍基地内」での「器物損壊容疑」というが、そもそもなぜ日本の刑法を適用できるのか。心底睨む。(内原英聡)

▼昨年、「自衛隊が危険になる」という指摘を受け、安倍首相は「リスクは残ります。しかし、それはあくまでも国民の命と平和な暮らしを守り抜くために自衛隊員に負ってもらうもの」と答弁した。
 そして安保法成立から1年。南スーダンで自衛隊が武器を持って活動する駆け付け警護が現実味を帯びてきた。戦闘でも、衝突でも、その紛争に加担したり、進んで巻き込まれることが外交ではない。また、この状態での武力行使は明らかな憲法違反でもある。自衛隊を政治利用し、改憲を狙う安倍政権。そのリスクや犠牲が、日本の平和な暮らしを守るのではなく、その犠牲が新たな犠牲を生むのだ。
 ボブ・ディランの歌に自分でリスクを負わない為政者や、戦争で私腹を肥やす大企業を糾弾した「戦争の親玉」という曲がある。
 この度のノーベル賞受賞で、この歌がすこしでも安倍首相の胸に突き刺さることを願う。(尹史承)