週刊金曜日 編集後記

1105号

▼「人工知能搭載のロボットが介護現場に導入」という話を初めて聞いたとき、"ふん、高齢者にはロボットあてがうわけね"という思いが頭をよぎった。近しい人が高齢者施設のお世話になり、いろいろ不満もあり、猜疑心があったからかも。今回「ド文系」の1人としてAI特集をやることになり、ドキドキしつつ施設に伺った。
 目を開かされる思いだった。取材したのは特養老人ホーム。要介護「3以上」の人しか入居できない。つまり全員が少なからず認知症などの症状がある。その彼女ら彼らが目を輝かせ、本当に楽しそうに! AIロボットを見つめていた。気づけば、ここには希望があるなあ......と独りごちていた。
 AIについては「仕事を奪われる論」など、煽りすぎと感じるものも。しかし、介護現場の過酷さは、そこを心配するどころか「頼むから少し奪ってよ、私たちの仕事を!」くらいの状況だろう。AIへの期待は大きい。たとえば職員の負担になっている膨大な介護記録の処理などは、AIがまさにお手のものだろう。(小長光哲郎)

▼「仕組みはできた。必要なことは防衛省・自衛隊による実行だ」。安倍晋三首相は9月12日、4年前に「血を流さなければ国を護ることはできない」と発言した稲田朋美防衛大臣とともに出席した自衛隊高級幹部会合で、そう訓示したという。「仕組み」とは、この男がやってきた"愛国"教育基本法への作り替え、「憲法違反」との指摘を受けながら強行した特定秘密保護法や戦争法の立法化、自衛隊による米軍の後方支援を世界規模に広げた日米防衛協力の指針(ガイドライン)18年ぶりの見直し、武器輸出の解禁などであろう。この発言の前には、核実験をした「北朝鮮」を名指しで非難し、尖閣諸島や南シナ海での中国の動きを念頭に「強い危機感を諸君と共有している」と発言している。となると、「実行」とは戦闘行為あるいは戦争なのだろう。79年前に日本が「暴支膺懲」(暴虐な中国を懲らしめろ)をスローガンに中国侵略を進めたように、この政権が今、「北の横暴を許すな」と、かの国と共に「実行」行為に出た場合、果たしてどれだけのメディアと個人が反対できるのだろう。(片岡伸行)

▼20年も前、編集後記に書いた一文で、猛烈な抗議の手紙を受け取ったことがあった。「えっ」と頭が真っ白になった。差別的発言を注釈せずにとりあげたという指摘で、私は"書き方はよくなかったが、自分に差別する意図はない"という釈明めいたものを送った。
 その方が、1997年に『エイズ患者診ます』(西村有史、青木書店)という本を出されていたことを最近知って、取り寄せて読んだ。非加熱製剤の危険性を察知しながら回収をせずに使用しつづけた薬害エイズの問題を告発しているだけでなく、他の薬害のことや、ご自身が医師として歩まれた道を失敗も含めて書かれていた。
 昔の本ではあるが、根本的な指摘はいまも通用する。直接私の批判と関わる部分はなかったが、読後、件の一文は弁解の余地なくまずかったとはっきりと思った。批判の一文だけでなく、その背景にあるものをまとめて書籍として読めたのは幸いだった。
 タブーをつくらず議論をしていくとしたら何が必要か、今度の件で痛感した。遅ればせながら......。(小林和子)

▼保育園から、市の療育センター的な施設に発達の相談に行ってはどうかと言われ、下の子を連れて行き始めた。予約を取るのが結構大変で、保育園の行事やこちらの都合を考えた上で、センターの空きの日程から選ぶのはなかなか毎回難しい。また、自分たちが行くことになり、初めてセンターが民営化されていたことを知った。以前は公立の保育園からの保育士さんの異動を聞いていたりしたが、すっかり別の施設になっていた。
 当初、自治体の保健福祉課の専門職員が保育園に来て、子どもの発達の具合を見て保育士に伝え、保育士から私が聞いて、それを私がセンターに伝えろと保育士が言う。保健福祉課から直接、センターに自動的に伝えることは、民営化以降できなくなったから、保育園からセンターに伝えていいという許可と園への依頼を保護者がすれば伝えます、とも。民営化前からの利用者からも、通える回数が減ることになったなど、いい話を聞かない。少しでも憂鬱な材料をなくして前向きに通おうと思ったのに。(佐藤恵)