週刊金曜日 編集後記

1104号

▼知人がフェイスブックで『シン・ゴジラ』をほめているので関心を持ちました。調べるとツイッターでも大人気。締切の都合で北朝鮮の核実験と絡めた論考を入れられなかったのが残念ですが、7月29日の公開から少し経っているので、中味に斬り込んだ特集にできたのではないかと思います。
『偽装──「耐震偽装事件」ともうひとつの「国家権力による偽装」』を発刊しました。これまでは電子版(キンドル版)のみの発売でしたが、好評なので書店でも手に取れるようになったのです。耐震偽装問題で罪に問われたヒューザー元社長の小嶋進さんが、事件の真相を赤裸々に明かす内容です。あの事件の被害者は直接的な関係者だけではありません。事件によって日本のマンションは再び「狭くて高価」になりました。耐震性向上のためには高くなっても仕方ないですって? いや事実は違うのです。ぜひ、手にとってください。今後も電子と紙の調和を考え、さまざまな情報をお届けしたいと思います。(伊田浩之)

▼茨城朝鮮初中高級学校3年生が朝鮮民主主義人民共和国を修学旅行で訪れた際に同行、撮影されたドキュメンタリー映画『蒼のシンフォニー』が今年4月に東京でロードショー公開され、上映の輪がじわじわと全国に広がっている。
 自身も朝鮮学校の卒業生である朴英二監督は、「どうして"北朝鮮"と関係のある朝鮮学校に(高校無償化や補助金として)税金が使われなければいけないのか」という世論に対し、「朝鮮学校は、朝鮮とは切り離して考えられない歴史的な関係の中で存在してきている」「なぜ朝鮮を祖国と呼ぶのか」について明らかにしたかったと撮影のきっかけを話す(URL・http://soraironosymphony.com)。
 東京・町田市にある西東京朝鮮第二幼初中級学校では9月24日(土)11時10分~/16時30分~、学校創立70周年記念上映会を開催。一般1000円、中高生500円。朝鮮学校を支える町田市民の会(090・3692・9382瀬戸)まで。(吉田亮子)

▼思うところあって休日に新幹線で京都へ向かった。伏見桃山陵のうっそうとした森に入ると、石造りの階段が230段。見上げると、快晴の空に白雲が縮れている。 
 東京では天皇の生前退位に関する議論がはじまった。安倍首相、日本会議、皇籍復帰を悲願とする旧宮家......それぞれの思惑がギシギシと軋み音をたて始めている。
 昨年刊行された『賊軍の昭和史』(東洋経済新報社)という本の中で、作家の半藤一利さんはこう書いた。〈「薩長史観」的な、日本を軍事的強国にし大国にするのが目的のような考え方が大きく息を吹き返してきている〉。
 ここでいう薩長史観とは明治以降、近代国家をつくりあげる過程でつくられた皇国史観のこと。この時から日本という国はずいぶんと無理を重ね、破滅を招いた――。
 坂の上の雲をめざす。140段目くらいで高齢の夫婦がひと休みしている。無理は禁物です。ぜえぜえしながらてっぺんまで登りつめると、眼前には明治天皇の陵墓。眠り続けてくださいよ、と柄にもなく手を合わせた。(野中大樹)

▼相模原事件に続き台風10号による岩手県の高齢者施設9人の水死事故。原因は違うけれど、犠牲者は「一億総活躍」から取り残された人たちだった。岩手では高齢者らを早めに避難させる「避難準備情報」が役に立たなかったし、「避難勧告」も出し忘れていた。
 昨秋のETV特集で、ヒトラーが"生きるに値しない"多くの障がい者をガス室に送ったことを知った。「一億総活躍」が行き過ぎると似たことが起きるのではと心配になり、本欄に感想を書いた。現実になってきているようで怖い。
 重い障がいのお子さんを育てている野田聖子衆院議員は、いつか相模原事件のようなことが起きると思っていたそうだ。〈息子を通じて、社会の相当数の人々が障がい者に対するある種の嫌悪を持っていると日々感じてきたから〉と。
 活躍できない人も温かく見守る社会にならないと、犠牲者はさらに増えるだろう。いつ自分が標的になるかもしれないことなど、想像すらできないまま。(神原由美)