週刊金曜日 編集後記

1100号

▼昨年夏の国会前での安保法案反対デモの盛り上がりは、今でも心に焼き付いている。「戦争反対」「野党は頑張れ」。さまざまなコールを叫ぶSEALDsメンバーの全身を使った表現行為に私は共鳴した。安倍政権への怒りが本能を駆り立てたのだろうけれど、近年見たどんなライブよりも体が熱くなった。彼らが「ムーブメント」と呼ぶように、それは社会運動の枠組みを超えたうねりだった。
 そんなSEALDsの奥田愛基さんと原一男監督の対談が実現した。原監督とはかねてから、表現者ということについて何回か話す機会があった。誌面には載せられなかったが、奥田君は対談で「自分の人間らしい言葉が奪われている」と言った。さまざまなメディアに「消費されている」と。『週刊金曜日』に対しては「あらかじめ枠にはめた質問やキャッチの付け方をする」「上から目線で評価してくる」と言っていた。市民に寄り添うメディアを標榜する限り、この指摘を社内で共有できる環境を作りたい。今回の対談で奥田君、原監督らしい言葉が少しでも伝わることを願う。(渡部睦美)

▼「情報戦争」とも言うべき事態が、米国で起こっている。7月22日、ウィキリークスが民主党全国委員会の大量のメールを個人情報を含めて暴露し、民主党幹部4人が辞職した。クリントン氏指名のために幹部が事前に動いていたこと等が明らかになった。その後、ウィキリークス創設者アサンジ氏は、クリントン氏の逮捕に繋がる情報を準備していると述べた。
 民主党は、ロシアが情報を「盗み」、トランプ氏をホワイトハウスに送り込むために、アサンジ氏を動かしているという宣伝をくり返している。さらに、民主党の情報を入手したというハッカー「グッチファー2」が、民主党議員らの情報を個人情報も含めて暴露したが、この人物がロシア側だとの宣伝も行なわれている。
 ジャーナリストのグリーンウォルド氏は、民主党がクリントン氏に敵対し批判する者をロシアの「手先」だとする戦術は、マッカーシズム以来の醜悪な戦術だと述べ、米政府では情報流出がロシアによるという確証はまだ得られていないと述べている。(樋口惠)

▼劇画『空母いぶき』(かわぐちかいじ作、惠谷治監修、小学館)は読み方注意の作品だろう。あらすじは20XX年。中国の人民解放軍(とりわけ海軍)が尖閣を皮切りに沖縄の与那国島や宮古島を攻撃する。これらの島には自衛隊の施設(=基地)がある。与那国常駐の自衛官150人は即座に制圧され、多良間島を含む約3000人の住民が人質に。周辺の海と空では日中両軍の攻防が続く......。
 作家の百田尚樹は7月28日にツイッターで、「そのリアリティは真に迫る」と評価した。また月刊『正論』2月号、小野寺五典元防衛相は「あまりにリアル」と驚嘆し、同じ記事で元海自の伊藤俊幸は「自衛隊にかなりの協力者がいるのだろう」と推理している。
 だが作品は島人の心理や生活描写が稚拙であり、制作サイドは政府や自衛隊を過剰に美化している。作品を推す人びとが南西諸島への陸自配備を支持しているのも白々しい。防衛省の計画では、配備が"抑止力"になるとの宣伝も飛び交う。かたや『空母いぶき』をリアルと評するなら、その宣伝さえ虚妄ではないか。(内原英聡)

▼どうやら夏風邪らしい。せきが止まらないので、耳鼻科に行った。のどに違和感があると訴えたら、ファイバースコープでのどの奥を診察、画像を診ても異常なしとのことでひと安心。そのうえ「きれいな声帯してますね」といわれ容姿をほめられたわけでもないのにまんざらでもなかった。 
 風邪の多くはウイルスが原因だが、コンピュータにも蔓延している。奴はメールに潜んでやってくる。以前は如何にも怪しいメールだったが、最近は巧妙だ。取引先を装うこともあるので、始末が悪い。先日も電話して確認したくらいだ。メールの罠にくれぐれもご注意を。罠といえば、日本会議と生長の家の関わりが語られた弊社刊『日本会議と神社本庁』の鈴木邦男氏へのインタビューが興味深い。かつて全国学協初代委員長だった頃、ハニートラップがあったのかという質問に対して「歯切れ、悪い」鈴木さん。一方、社内でもその気になって引っ掛かりそうな人がいる。私?誘わないし誘われないので引っ掛かりません、声帯美人ですけど。(原口広矢)