週刊金曜日 編集後記

1092号

▼確かにセコイ。政治資金(われわれの税金)をこんなふうに使われては怒りも収まらない。しかし連日、マスゾエに集中砲火を浴びせるメディアの姿勢もおかしい。
 マスゾエ個人の資質や道義的問題より、使い途を規制していない政治資金規正法のひどさの方がもっと広く深い問題だろう。また、公用車での別荘通いどころではない、現金を懐に入れたアマリのあっせん利得罪不起訴も徹底的な集中砲火があってしかるべきだ。このリンチ的なマスゾエ攻撃には裏で進行する、何か別の狙いがあるのではないかとすら思える。
 カネがらみで言えば、東京"ワイロ五輪"の報道も尻つぼみだ。「アンダーコントロール」(アベシンゾウ)という嘘で始まり、2億3000万円のワイロで"買収"した疑惑は、セコイで済まされる話ではない。この大会の「オフィシャルパートナー」となった朝日、読売、日経、毎日の4社は合わせて60億円という莫大なスポンサー料を支払う。だから、批判ができない。マスゾエよりも、自分たちの方がカネまみれではないか。(片岡伸行)

▼英国のEU脱退か残留かの国民投票を控え、グーグルが残留派の「秘密兵器」だと言われる。ヤフー、ビングでは1位の脱退派論客のサイトの検索順位を10位に「下げている」からだ、という。
 ジュリアン・アサンジ氏が、グーグルはヒラリー・クリントン氏の「秘密兵器」だと述べた。グーグルの親会社アルファベットが、クリントン氏の選挙支援のための会社グラウンドワークを設立して巨額の資金を投入。オバマ大統領再選を支援したように、民主党の大統領がグーグルの利益に適う。
 グーグルの検索結果が国政選挙に20%の影響を与えるという。米国等での実験結果が示している。グーグルは、検索市場の90%を独占する巨大な企業であり、選挙の際に威力を発揮する。私たちは「検索結果の上位がよりよいもので正しいと信じるように、実験のネズミのように毎日条件付けされている」(エプスタイン博士、心理学)。私たちが客観的だと信じているアルゴリズムを「操作」するのは、利害に敏感な人間である。(樋口惠)

▼あっせん利得問題で大臣の職を辞し、逮捕もありえると思われていた甘利明氏が、不起訴処分になり政務復帰するという。さらに公設秘書もお咎めなしの大甘裁定。どうやらこの国の治外法権は米国だけでなく、"自民党"にも適用されるようだ。どんな悪事を働いても自民党のルールの中で裁かれるのだから、やりたい放題も納得。
 そして御用メディアと化した日本のマスコミの大多数はそれを報じ、追及することはしない。都知事のチャイナ服や絵本の購入が、甘利氏の数千万の賄賂、五輪招致の数億の裏金、数兆円規模の年金運用損失よりも報道価値が高いとは到底思えないのだが......。
「違法ではないが不適切だった」と反省し、五輪の式典を夢見る都知事は、まだ可愛げがあるが、「違法三昧で不適切」でも開き直る現政権はあまりに厚顔無恥だ。
 参院選まで一カ月を切った。この国の将来を決めるのは、一人の独裁者でもなければ、"第三者"でもない。当事者たる一人ひとりの有権者だ。(尹史承)

▼今週号の「金曜アンテナ」(8ページ)でもご紹介したが、元東大全共闘代表で科学史家の山本義隆さんが監修する「ベトナム反戦闘争とその時代」展が開かれた。
「10・8羽田闘争」の写真とともに展示されていたのは、山崎博昭さんが羽田闘争当日に鞄に入れていた京都から羽田のバス券や本。一人の若者の思いがこれらに詰まっていると感じ、改めて山崎さんの死を追悼した。
 また、『週刊アンポ』やの反戦自衛官の運動で作られていた『整列ヤスメ』など、数多くの資料や写真が当時の熱気を伝えていた。これらを過去のことにせず、現在と未来につなげるために何をすべきかが私たちに問われている。
 山本さんは展示内容を監修しただけでなく、展示の配置や掲示なども全部ご自身でされたという。この展示会は秋に京都でも行なわれるが、加えて10月21日には山本義隆さんが京都精華大学で講演をされる予定だ。開催場所が大学なので学生の参加も多くなるだろう。とても楽しみだ。(赤岩友香)