週刊金曜日 編集後記

1091号

▼おかげさまで小誌の沖縄特集はこれまでよく読まれている。ただ、沖縄に米軍基地が密集することによって沖縄の人たちの人権が損なわれていることは多くの日本人にとって関心が薄い。(日本人がわが事として抗議すればオバマ米大統領は来日できなかっただろう)
 そういった人たちに手にとってもらえる特集名はなにか。今回は「沖縄の怒り」にしようかと考えていたら、別件で話していたSEALDs RYUKYUの元山仁士郎さんに「確かに沖縄の怒りはある。どうすればニュアンスを削ぎ落とさずにより手にとってもらえるかを考えると"うねり"ですかね」と提案された。特集名を話し合う場でこの話をすると、賛同が得られた。元山さんの"使用許可"を得て特集名が決まった次第。
 対米従属の安倍晋三政権、中央政府を動かすには世論を動かすしかない。日米地位協定の適用は日本全体で沖縄だけではないのだ。自らの問題として沖縄差別解消に尽力したい。(伊田浩之)

▼近く弊社から刊行される「日本会議」の原稿を書きながら、強く感じたことがある。おそらくこの国は1952年の「独立」以降、一貫して「内戦」状態にあるのだと。無論、武力は伴わないが、理念と歴史認識においてだ。戦後、神社本庁を始めとする右派勢力は、戦前を是とし、絶え間なく大日本帝国への引き戻しを画策してきた。紀元節、一世一元制度を復活させ、「国旗・国歌」法を自民党と組んで法制化させ、教育基本法の精神も葬った。そして今や日本会議とその「国会議員懇談会」の「特別顧問」安倍晋三は、明文改憲に王手をかけつつある。彼らはそれを「日本の伝統への回帰」と呼ぶが、戦後民主主義に対する長期間の攻撃の執拗さは、明文改憲さえ阻止すれば事足りると考えてきたような「護憲勢力」の比ではない。憲法一つとっても国民のコンセンサスはいまだ成立していないこの国は、「内戦」状態に等しいという現実の非情さを忘れず、彼らには非妥協的に臨むしかない。(成澤宗男)

▼好きな映画のひとつに、光州事件についての日韓共同制作映画『ペパーミント・キャンディー』(2000年)がある。主人公の自殺から始まる衝撃的な作品だ。最近知ったが、映画のDVDはもう販売されていない。ひとつの「記憶」を、多くの人と共有できない時代になったのだろうか。
 韓国で5月18日は、光州民主化運動記念式典が開かれる日だ。運動の犠牲者を悼む歌「あなたのための行進曲」を斉唱したいと遺族などは求めたが、政府はこれを認めなかった。保守政権であることが理由とも言われるが、それだけではない。近年、「イルベ」というネット掲示板が人気を博し、顔を持たないネット民の間で、民主化運動に対するこれまでの共通認識への揺り動かしが起きている。
 かつての民衆蜂起はいまや「暴動」と呼ばれ、「北朝鮮が扇動した」との陰謀論も渦巻く。共有されてきたはずの悲しみと情熱はどこへいったのか。(渡部睦美)

▼出版取次大手、日本出版販売(日販)の2015年度決算が発表され、雑誌の販売金額が書籍の売上げを32年ぶりに下回ったことが判明した。休刊誌が創刊誌の数を上回り、既存誌に対しても受入部数抑制を続けるものの雑誌返品率は40%を超えている。この売上げの逆転現象は雑誌の売行き不振を嘆くに留まらず、雑誌を基盤として成り立ってきた出版流通自体が限界であることを浮き彫りにしている。こうしたなか、本誌5月27日号の売行きが良く完売書店が続出した。「日本会議」の特集が大きな支持を得た結果だが、企画立案から発売までの過程で販売担当と編集部との綿密な連携があったことにも触れておきたい。加えて取次店との粘り強い部数交渉、書店への情報提供、拡販物の作成など、これらの積み重ねが今回の好成績の一助になったはず。出版の現状に「正しく絶望」しながら、これからもしたたかに立ち向かっていくつもりだ。(町田明穂)