週刊金曜日 編集後記

1080号

▼袴姿の若い女性の姿をみかけるようになった。会社のある神保町は日本武道館の近くにあるので、これからしばらく武道館を借りきって行なわれる学校関係の卒業・入学式に参加する人たちで、最寄り駅はごった返す。時が経つのは早い。もうそんな季節なのか。
 娘の通う中学も18日に卒業式を迎える。連日、全学年の授業に練習が組み込まれる。娘は一年中、半袖の夏服で通していたが、その日は学校に行きがけ、あわてて冬服に着替えていた。練習といえども冬服着用とのこと。
「3年生の最後の集大成を、皆さんも支えてあげてください」と先生方。だが、細部にわたる異常なこだわりに、「はらたつのり」と娘はいう。拍手の練習では、「音が小さくてはいけない」「興奮しすぎてもいけない」、お辞儀では「一、二、三、四の速さで」「男子が速すぎる!」とくる。なぜそこまで教え込む必要があるのか。
 娘らはしらけながらも、大好きな部活の先輩に渡す色紙を今、丁寧に作り込んでいる。(小林和子)

▼OECD加盟国34のうち日本はワースト6位の貧困率で、生活保護を受けている人が過去最高の217万という。貧困で、毎日おにぎりしか食べられない家族の姿がテレビに映しだされたりしているが、議員としての質の劣化が激しい安倍政権の何人がこの事実を真剣に受け止めていることだろう。
 昨年、フランスでは、「貧困と食品ロス問題」解決のためにひとりの市議会議員の草の根運動が立ちあがっていた。オンライン署名サイトで21万の署名を集めた運動はフランス議会を動かし、世界初の大手スーパーでの「賞味期限切れ食品の廃棄禁止」の法律を成立させた。食品はフードバンクなどの人権援助組織に寄付され、貧困に苦しむ人たちに配布される。スーパーは法律を無視すれば罰金が科せられるというその法律は、この2月から施行されている。
 あれほどの「戦争法」反対の声を無視した安倍政権と、国民の声を受け止めるフランス議会のあまりの違いに、さらに議員の質の違いを実感している。(柳百合子)

▼3月11日号の記事<"転向"した元『朝日』ソウル特派員、前川惠司氏に記事捏造疑惑>の続報をお伝えしたい。前川氏の記事を掲載した『SAPIO』(小学館)の弥久保薫編集長は、小誌の取材に「陳述書を読んでおりませんので、回答を控えさせていただきます」としたのが11日号の話。
 そこで陳述書を送って再度回答を求めたところ弥久保編集長から次の回答があった。「本誌に直接関わりのない裁判に提出された陳述書についてコメントする立場にございません」。そして、前川氏への質問はSAPIO編集部で対応するという(つまり同じ回答)。
 前川氏に攻撃された元『朝日』記者の植村隆氏は「なぜ、前川氏は、こんなインチキな取材までして私を貶めようとするのか。許しがたい。また、記事に疑問が提示されているのに、無視する編集長の態度も信じがたい。こういう人々にバッシングされてきたのだと思うと、あきれ果てる」と憤る。
 植村氏叩きの「本当の姿」がまた明らかになった。(伊田浩之)

▼佐高信編集委員が2月19日号で取り上げた金時鐘さんの『朝鮮と日本に生きる』を読んで、涙が止まらなくなった一文がある。日本に逃れ、着る物にも事欠く生活をしていた頃、仕事に向かうバス停で突然女学生から「お父さんのお古です。使ってください」とカッターシャツを差し出された。金青年は、恥ずかしさのあまり顔をそむけてバスに乗り込んでしまう。
 以後、そのバス停は避け、二度と会うことはなかったが、なぜ素直に受け取らなかったのかと、今でも折りにふれ心がうずいてくる。<貴女のおかげでとかくけばだちがちな日本への思いが、折りたたまれた洗いざらしのシャツにくるまれてほんのり和んでもくる。そしてそのつど自分に言い聞かす。日本は絶対、心根のやさしい人々の国であると>と結んであった。
 以前、幸運にも金さん取材に同行させていただいた時、著書にサインをお願いしたら、「高い本を買っていただいて」と詩の一節を書いて下さった。お人柄のにじむその一言も胸にしみた。(神原由美)