週刊金曜日 編集後記

1059号

▼侵略戦争を美化し戦争犯罪人を崇め祀る靖国神社にせっせと参拝したり、平和主義の柱である9条の破壊をめざす「改憲」を訴えたり、はたまた、ことさら「日本の伝統と誇り」「日本らしさの回復」などを強調し天皇崇拝の "前世回帰" を唱え、日本軍性奴隷(「慰安婦」)を否認するなどの点でほぼ共通の主張をもつ日本会議と神道政治連盟には、それぞれ「国会議員懇談会」という組織がある。
 10月7日に発足した第三次安倍晋三内閣の閣僚は、「一億総活躍」という「一億総懺悔」を想起させるわけのわからない閣僚ポストが加わり、計20人となった。ざっと調べたところ、日本会議国会議員懇談会に所属する議員は11人、神道政治連盟には17人が所属。そのほか1人が「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」所属なので、9割が前記の主張を唱える右派もしくは極右の政治運動体メンバーということになる。なんともおぞましい状況だが、黒塗り街宣車から響くようなその主張が国民の総意になるとは到底思えない。戦争法制によってすでに若者たちは目覚め始めている。 (片岡伸行)

▼すがすがしい秋晴れの朝、団十郎(朝顔)がベランダでまだ大きな花をつけている。7月からはやばやと咲きはじめたのに、頑張っているなあとしみじみと眺める。
 ラグビーのワールドカップ・イングランド大会がいよいよ決勝トーナメントだ。ベスト8に残れなかったが、日本の活躍は驚きである。テレビのない私は翌日の新聞に釘付けだ。注目は松島幸太朗。神奈川県・桐蔭学園高校で全国制覇したときのぶっちぎりのトライはラジオで聞いた。
 幼少期を過ごした南アフリカに、高校卒業後に渡り、修行をした彼にとって、今回の南アフリカ戦の勝利はひとしお感慨深いものだったろう。母親の松島多恵子さんは、本誌の創刊当時、アパルトヘイトが廃止され、新しい社会づくりが始まった南アについて現地から報告をしてくれたこともある。
 そんな縁もあって何年か前に多恵子さんにお会いしたとき、幸太朗選手のことを苦笑しながら「家では寝てばかり」とおっしゃっていた。W杯ではその大物ぶりを発揮してくれた。さらなる活躍が楽しみだ。 (小林和子)

▼"もやい"の稲葉剛さんは、自身のブログで「経済的徴兵制」を「赤紙なき徴兵制」と呼んだ(14年7月4日)。安保法成立による「戦地」派遣で、応募が減るとともに、辞職も増える自衛隊員を、どうやって「充足」するか。政府・防衛省は早くから策を練り、英米「先進国」に範をとったのだろう。
 前原金一氏の "奨学金延滞者は自衛隊へ" 発言(18ページ)も、政府は個人的失言として収束を図るが、"衣の下から鎧が見えた" 最たるものだ。自衛隊の外では奨学金を大学生に勧め、内では隊員に積極的に住宅ローンなどを貸し付け、結果的に「借金漬け」で逃げ場をなくす。しかも労働市場は、全体でも約4割、高卒者では約7割が非正規社員にしかなれないから選択肢は狭まる。「自衛隊にとっては非正規の多い現状は都合がいい」と布施祐仁さんは明言する。
 右の数字に、大学への進学も、奨学金受給も、ともにほぼ二人に一人という現実を加味すれば、経済的徴兵制の標的の大きさがみえてくる。自衛隊は、もはや「戦争・貧困ビジネス」だ。(山村清二)

▼シリアから欧州へ脱出する難民がニュースになっている。特にトルコに流れ着いた幼い男の子の溺死写真は大きな衝撃をもって迎えられドイツは大量の難民の受け入れを表明している。翻って日本の態度は安倍首相が国連の総会での演説で約8億1000万ドル(約972億円)の「難民支援」を表明しながらも、演説後の会見では難民支援を「人口問題」として答えた。日本への受け入れを拒絶するかのような回答は、こちらも衝撃をもって迎えられたようだ。こうした態度は安倍首相に始まったわけでなく、いままでの日本政府の態度を正直に話しただけであろうことがより問題の根深さを感じさせる。排外主義とも無関係ではない。
 これまで日本は移民や難民をどのように遇してきたのか、これからどうするべきか。古くから移民難民問題に取り組んでこられた山村淳平さんが解放出版社から『難民からまなぶ世界と日本』を上梓した。難民とはどのような人たちか国際ニュースや海外情報に接して充分わかっている、という人に読んでほしい1冊だ。(原田成人)